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だから、スッと脇を抜けて行こうとした俺を、翼が引き留める。そうして、俺をぎゅっと抱きしめると、本棚の陰に隠れた。
「―――っ」
「ちょっと黙ってて」
すぐにもがこうとした俺に対し、翼が小さく声をかける。
すると同時に、図書室のドアが開いた。
「――――チッ、ここにもいねえか」
「さっきまかれた感じだったら、この辺には間違いないんだがな」
「あと何室のこってる?」
「あと、奥の視聴覚室と特別教室が2つだ」
クラスの奴らの声がして、バタバタとせわしない足音が図書室に響く。
―――今はやめろ、って、こういうことか……
翼の胸に隠されながら、ドキドキと心臓が存在を主張し始める。綱渡りの状況だったことと、改めて、俺が獲物であるということを実感したからだ。
「しゃーねぇ、次行くか」
「他の奴らからも連絡来ないし、他も当たってみよう」
スマホを確認しながら言う奴らの声と足音が、だんだん遠ざかっていく。図書室の扉が閉められ、完全に音が聞こえなくなったところで翼は俺を離した。
「―――もう大丈夫だよ。ま、あと10分ってとこだけどね」
「……ありがとう」
「廉って結構素直だよね」
「オマエがどういうつもりかはわからんが、俺が助かったから礼を言っただけだ」
「はいはい、そりゃどうも」
俺の言葉などどこ吹く風で、翼はそんなことを言う。どうにも食えないやつだ、と認識を改めていると、翼がまた口を開いた。
「―――俺に協力を求めないんだね」
「は?」
翼はそういうと、俺を再び見つめる。そして、俺の横に手をつくと、至近距離で見つめてきた。
「俺の秘密を知っているのは、廉と篠だけだよ?篠はあの通り自分の信じたことしかしないし、俺を懐柔して利用する価値は十分にあると思うんだけど」
「…俺にだけ情報を流すようにしろ、とかか?」
確認の意味を込めてそういうと、翼は笑みを深くした。同じ笑顔でも、こんなに感情豊かに見えるのはなぜだろう。
そして、今はとても冷たい目をしている。
「―――悪いが、俺はそんなことしない」
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