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栗林が、いびつを隠すのに必死だというのなら。

俺は、いびつを補正するのに必死なのかもしれない。

ぶつからなければ、根本的に丸にはなれない。お互いにぶつかって、削りあって、そうやって形成されていくものなのだ。

俺は髪の毛を梳かれるまま、じっと翼を見上げた。身長差の関係で少し上にある翼の目が、優しく細められる。

「……何度も言うけど、廉のことは嫌いじゃないよ」
「好きでもないくせに」
「そんな感情、ずっと昔においてきちゃった」
「中立も大変だな。身の振り方次第では自分を破滅に導くだろうに」
「その破滅の結果も見えちゃうからね。その時がきっと、俺の終わりなんだよ」

理系のクラスに居ながら、酷く宗教的な観点で話す奴だと思った。

大げさないい方をすれば、神の視点とも言えるのかもしれない。ただ自分はこの世に生きていないかのように、ただ事の成り行きを見守る。

救いをもたらすこともなく、絶望の淵に落とすこともなく。

ひとしきり満足したのか、翼は俺の髪を梳いていた手を止め、『帰ろうか』と微笑んできた。

「明日栗林に呼ばれてるみたいだし、今日くらいゆっくりしなよ」
「あぁ。――――なぁ、翼」
「何?」
「俺も、たまにここに勉強に来ていいか」

俺が鞄を抱え直しながらそう申し出ると、翼はちょっと驚いたようにした後『お好きにどうぞ』と頷いた。

「俺だけの図書館じゃないしね。きたいときに来ればいい」
「そうさせてもらう」

翼の言葉に頷くと、俺たちはつれだって図書館から出た。

翼も俺も、お互い無言だった。俺は無言なのをいいことに、翼が言っていたことを反芻する。

対立は避けられない、俺と栗林たち。俺が折れるという選択肢もあるが、それは絶対に使いたくない。

それでも、どちらがより酷いかと言えば、お互い様だ。

俺はまた、栗林に責任を負わせようとしているのだから。その真実を知った時、このクラスはどうなるのだろう。

翼にも、そこが見えないらしい。

俺は、俺たちはどうなるのだろう。

―――俺はその日、この学園に来て初めて、迷い眠れない夜を過ごした。





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