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翼はそういうと、意味深に笑った。

「俺は、小さいころから自分の才能を理解している。だから、やろうと思えば自分の都合のいいようにすることだって簡単だ。それが、怖いんだ」

翼はそういうと、自分の顔を手で覆った。

―――もしあなたがたくさんの財宝を手にしたならどうする?

子供が好きそうな心理テストの質問。現実にはおこらないと分かっているから『浴びるように使う』だとか好き放題に言えるけれど。

実際手にしたときには、きっと恐怖が勝るのだろう。

なんでも思いのままにできる。それをきっと、良識のある人間は怖がる。自分を満足させるための行為が誰かを傷つける、その事実が足かせになる。

―――手に負えないほどの力を手に入れた時、人は臆病になるのだろう。

「怖いから、俺は逃げた。自分が行動を起こすことを」
「―――だから、最下位になって殴られてたのか」
「殴るよりずっといいよ。栗林は、俺なんかよりずっと強い。集団心理とかすべてを理解したうえで、率先して行うんだから」

痛みも責任も、すべて彼の手に。

暴力が正しいなんて、誰も思っていない。それでも、丸になれないいびつな彼らがお互いで傷つけあわずに済むように。

栗林は自分が率先して行う。すべての責任を背負って。

上に立つというのは、そういうことだ。実際は彼が思いのままに動かしているように見えるのだろうが、それ以上の思い重責が彼をむしばむ。

先ほど出会った彼を思い出した。まるでそんなそぶりは見せず、『ただ単にイラつくから』という理由で突っかかってきたように見えたのに。

「だからさ、これ以上栗林を苦しめないでやってよ。わざと煽って、無目的にやってるっていうなら、俺は殴ってでも止めるから」
「……どうして、そういうことを俺に言うんだ」
「俺は、廉のことだけが読めない」

翼はそういうと、俺の頬に触れた。それから手を上の方に伸ばし、髪の毛をさらさらと梳いていく。

「廉だけが、読めない。クラスでどんなことをしていくのか、いい方向に動かすのか、破滅に導くのか」
「えらく心配性だな」
「見えないことがこんなに不安だと教えてくれてありがとう。廉のことは嫌いじゃないよ。―――ただ、酷く孤独だね」
「1人が好きだから別にいい」
「そう?」
「安心しろ。無目的とか、意味なくしている訳じゃない」





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