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「そうじゃない。成績はみなくていいのか」
俺は後ろを振り返って翼に問いかける。すると、翼はこともなげに笑った。
「あぁ。俺は常に最下位だからいいんだよ」
「はぁ?」
思わず立ち止まると、後ろから追いついた翼が俺の背中を押す。押されるがままに歩いていると、『ちょっと寄り道する?』と下駄箱とは違う方向に背中を押した。
「なんでそういうことが言えるんだ。わざと手を抜いているのか?」
「いやいや、普通でしょ?俺、塾に行ってないのに成績がいい訳ないじゃん」
だとしても、おかしい。
星麗の平均点、最低点を考えて、連続で最下位を狙うことは困難だ。
ちょっと不調なクラスメイトが居たらすぐに順位が変動してしまうのに、まるで翼は常に狙って最下位になっているような口ぶりだった。
「さ、ここが俺の勉強部屋だよ」
背中を押されて連れていかれたのは、図書館だった。特別棟の奥の方にある図書館は薄暗くやや湿っぽい空気感だが、ここは星麗である。
普通の高校の図書館とは比べ物にならない蔵書の数で、まるで大学の図書館や市民図書館のような本の数だった。
「すごいな…」
「でしょ?でも参考書とかは年代物で古いし、勉強の足しになるようなモノは塾の方が多いからみんな来ないんだ。宝の持ち腐れだと思わない?」
確かに、図書館だというのに本を探している生徒はおろか、司書さんすらもいなかった。
結構な大声で話しているというのに、たしなめられることもない。
「翼、もう一度聞く。わざと手を抜いてるのか?」
「違うって」
「嘘だ。―――オマエは本当の『天才』だな?」
俺がそういうと、翼は正解だというように笑みを深くした。
たまにいる、本当の天才。一度見ただけで物事のすべてを理解し、記憶力も何もかもがずば抜けた本当に神に愛された才能の持ち主。
「不思議だよね。みんなが勉強しているのを見ていると『あぁ、この人は調子よさそうだから今回92点かな』とか分かるんだ。実際外れたことはない」
先見の明、というのだろうか。一を見て百を知ることで、自分がどういう行動をするべきかをしっかり理解してしまうらしい。
「だから、わざと怪しまれない程度の最低点に調節しているのか」
「そうだよ」
「なぜだ」
「―――俺が、臆病だからだよ」
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