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「―――簡単に帰らせてもらえると思うなよ。ちょっと話しあおうじゃねえか」
「いたっ!」
「どうせ塾行かねえんだろうがちょっと付き合え」
髪の毛をグイッと引っ張られ、そのままどこかに連れて行かれそうになる。痛みに顔をしかめながらたたらを踏んでいると、後ろから声がかかった。
「―――栗林、先生が呼んでたよ」
「あぁん?」
栗林がガラの悪い返答をしても、声をかけた主―――翼は申し訳なさそうに笑っているだけだった。
あの栗林の威圧感を前にしてもへらへら顔を崩さないまま、翼はさらに続ける。
「今日日直だっただろ?日誌持って帰ってない?」
「―――チッ」
栗林は盛大に舌打ちすると、俺を突き飛ばした。髪の毛の拘束がなくなったが俺は急なことに思わず転んでしまう。
「翼、分かってるんだろうな」
「何を?俺は、クラスメイトだよ」
栗林は翼とすれ違う際、とても低い声で唸るように言った。
しかし、そんな激しい怒りを向けられても翼はどこ吹く風で、いつものように笑っている。
「藤川、続きは明日だ。逃げんなよ」
「俺は逃げたことなんかない」
「言ってろ、カスが」
俺が腹を庇いながら立ちあがっていると、栗林が睨んできたので俺は思わず言い返す。
栗林はもう一度舌打ちをして、職員室の方に消えていった。
「……翼、ありがとう」
「俺は別に助けた訳じゃない」
「結果として俺が助かったから礼は言っておく」
「そんなことしてるヒマがあったらさっさと帰った方がいいよ。だんだん他のクラスメイト達も成績を見にここに来るはずだ」
そこに相変わらず俺が居たら、みんな栗林のような反応をするだろうな。
翼の言わんとすることが分かって、俺は頷いて帰ろうとする。すると、翼も後ろからついてきて、俺は首をかしげた。
「……なんでついてくるんだ?」
「なんで?俺だって帰るんだからこっちの道なんだけど」
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