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「……帰れば?」

全員が塾や家に帰った後、最後に残ったのは翼と俺だけになった。

俺は栗林が蹴倒した机たちをもとにもどしながら、すっかり息の整った翼に声をかける。すると、翼は自嘲気味に笑った。

「…忠告したはずなんだけどなー。なんで俺を殴らなかったかなー」
「オマエは散々栗林につけと言いたかったんだろうけどな、俺が納得できなかったんだ」
「そう。ま、何となくこうなる気はしてたんだけどね。見た?栗林の顔。凶悪嬉しそうな顔だったよ?」
「アイツはいつもあんな顔だろうが」

痛む腹を押さえながら机を運びつつ、ぼそりと口にする。

確かに、最後の栗林の笑みはぞっとするものがあった。今まで見てきたどんな笑顔とも違う、妖艶さが前面に押し出された笑顔。

確かにクラスを牛耳るだけのことはあるな、と思っていると、翼が口を開いた。

「もう帰りなよ。塾があるでしょ?」
「俺はまだ入っていない。それなりに調べたんだが、結局どこにも星麗生がいるようだからもう入らないことになりそうだ」
「え、そうなの?」
「そういう翼こそ、帰らないのか」
「俺はいつも自宅で勉強派だから」

要するに塾に入っていないと。

そんなことを一言二言話しながら机をもとあった状態に戻し、ついでに翼の怪我を手当てした。タオルしかなかったが、水で冷やしているだけでも応急手当てになるだろう。

「じゃ、俺は帰る」
「うん。―――ねえ、廉」

すべてを片づけた後で、さぁ帰ろうとした時に下の名前で呼ばれた。

「俺は、廉の味方にならないよ」

どんな内容かと思いながら振り返って翼を見れば、存外普通の内容だった。俺は小さく鼻で笑うと『当たり前だろ』と言った。

「オマエはクラスメイトなんだから、栗林たちといればいいじゃねえか。オマエがそういうこと言うのは、翼自身がこれから罪悪感感じたくないからだろう?別に、俺もオマエを助けたかった訳じゃないからおあいこだ」

むしろ最初この教室に入りたくすらなかったし。

それでも、翼は優しいから『俺のせいで藤川が仲間外れにされた』と嘆くのだろう。それが嫌で、俺を試すようなことを言うのだ。

だから俺は、罪悪感なんて感じる暇もないほど快活に笑う、嫌な奴でいればいい。

「…やっぱり、廉は変だ」
「でも、面白いんだろう?」
「調子に乗らないでよ」
「ははっ」

翼が拗ねたように言うので、俺は思いっきり笑ってやった。それを見て、翼も仕方ないというように苦笑した。

俺が星麗に来て一週間。

―――本当の意味で、学園生活が始まった。





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