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「……子供くさい理屈だな」
「煽ったって無駄だ。―――俺達には、これしかないんだ」

栗林に同調するように、他のクラスメイト達もはやし立てる。みんな、これがモラルに反するモノだと分かっていながら、それでも止めることが出来ないのだ。

集団心理と言うのだろうか、みんなが『イエス』と言うから『イエス』だという。

そうして、他の人と同じ言葉を口にして、同じ気持ちを共有した気持ちになって安心感を得ようとしているんだ。

俺たちは、いびつだから。

―――小学生の頃だったと思う。『勉強ばかりするヤツは大事なモノが欠けているんだ』、とクラスメイトに言われたことがある。

俺があまりに勉強ばかりするのを馬鹿にしたかっただけだと思いたかったが、それは今までの人生の中でまことしやかに何度も耳にした。

迷信のような、否定しがたいモノ。どうやって迷信だと証明していいかすらわからない。

『勉強がなんだっていうんだ!』と、突き放せない俺たち。

勉強をすれば、いつか報われると信じて、先の見えない真っ暗闇を不安の中に突き進むことしか出来ないんだ。

でも、勉強ばかりをして、手に入れられないこともあって。

『オマエの成績なら当たり前だ』と突き放す教師。

『あなたならこれくらい出来て当然よね』と自分の手柄のように誇る家族。

―――そうして、それでも手に入らないものがあると知りながらも、俺たちは勉強しかないのだ。

『本当に欲しいモノはそれじゃないんだ!』と悲痛に叫びながらも、本当に欲しいものを手に入れるためには突き進むしかないんだと理解してしまった。

だから、いびつに、自分なりに歪んだ行動で求める。

それが他人に『大事なモノが欠けている』と評価されても、小馬鹿にされながら、相応の努力を誉められなくとも。

―――そうやって生きてきた俺たちは、同じなんだ。

「さぁ、藤川の意見を聞くか。殴る、殴らない?」
「……俺は、殴れない」

だから、俺はあえて『ノー』と叫ぶ。

俺も、彼らと同じ。いびつで、欲しいものさえねだることも出来ないまま、ここまで進んできてしまった。

それを後悔したくない、生きざまは否定しないで欲しい。

でも、人生には挫折も必要だとえらい人がわざわざ言うのなら。

―――俺はあえて、小石になろう。





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