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―――俺が星麗に来て数日が経った。
今のところ勉強においていかれることもないし、なんとかなっている方だと思う。
そうして、気づいたことがある。
星麗には、暗黙のルールが多い。
昼食は教室で取ること、という小学生のような可愛さのあるものや、授業中、自習中は決して話さないことなど、実用的なものまで様々だ。
しかし、それはどんなことよりも効力を発揮する。自習中には近くに虫が来ようが蜂に刺されようが声をあげてはいけないそうだ。
それを栗林に聞いた時はぞっとしたが、一週間ともに暮らしてみると暗黙のルールが存在する理由も何となくわかる気がした。
お互いライバルで友人という関係は、実はとても不安定だ。関係に小石でも投げ込まれるようならば、すぐにライバル心は嫉妬や憎悪に変わる。
そんな不安定さを補うように、口には出さないけれどお互いで決まり事をつくる。
上司はたてる、敬語で話すという社会のルールと同じように、星麗に深く根付いたそれは伝統と呼べるのかもしれない。
勉強のストレスから逃れるように、それ以上ストレスを増やさないために。
そうしてお互いの関係を崩さないように神経質なまでに慎重なのは、ともすれば三年間ともに勉強する可能性のあるクラスメイト達と仲良くしたいからに他ならない。
また、仲良くするために、わずかながらヒエラルキーが存在するようだった。
うちのクラスでいえば、栗林と翼だ。
他のクラスメイトはみんな平等のようだが、栗林は頭一つ分出ており、翼は一歩下がっている。
「―――なぁ、星麗の授業どうだよ?」
数日前、俺にそう話しかけてきたクラスメイトが居た。
どう、の意味がよくわからなくて首をかしげていると、彼はさらに続ける。
「星麗さ、中高一貫だろ?なんでか知ってる?中三の間から高校の授業始めて、高二までにすべてのカリキュラムを終わらせて、あとの一年はひたすら受験対策さ。三年の授業しててビビったんじゃねえの?」
聞いてもいないのに、彼はそんなことを言ってきた。
確かに、俺たちは二年生にも関わらず星麗では三年の授業をしている。その事実を教えてくれるだけにしてはもったいぶった言い方に、俺は内心ため息をついた。
―――要するに、俺を馬鹿にしたいのか。
中途半端に編入してきた俺に、差を見せつけたいのだろう。
「―――大丈夫だ。先生の教えがうまいから分かりやすいし、今のところオマエに聞かなくても間に合っている」
「―――――っ!」
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