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この学校での定期試験の最低点は、82点。どんなに教師が難題をつくってきても平均点が9割を超えてくるほど、ここの生徒は勉強してくる。

一点の失点で順位が大きく変動していくこの学校で、上位をキープするのはとても難しい。

それは最大のストレスであり、最高の励みになるのかもしれない。志が高く、同じ目標を持つ仲間がこの学園には溢れているのだから。

でも、塾は違う。

いろいろな学校から、たくさんの生徒がやってくる。そこで他の学校の生徒とともに勉強をすることが刺激になるだろうし、逆にそれが差になる。

「同じ環境で、同じ勉強をしても、差がつかないだろ?」
「―――そうだな」

あの独特の笑みで微笑む栗林に、俺も頷く。

そして、差になると同時に、プライドが傷つかなくて済む。この学園では下位にいても、塾では上位なのは間違いない。

学園で成績が悪い落ちこぼれだと言われようが、塾では自分の努力がきちんと実になってくれる。それが、自分のプライドを守る。

塾や他校のレベルが低いという話ではなく、ここが高すぎるのだ。

だから、同じ塾に星麗生がきて欲しくない。

星麗生がくれば、嫌でも比べられる。比べられて、負けた時にはプライドが傷つく。それは学園で何度も負けて、悔しい思いをしたとしても変わることはない。

負けることは辛くて嫌なのに、悔しい悲しいと言って勉強を投げ出すことができない。

なぜそんなに勉強するのかと言えば、下位に甘んじているからといってそれに満足していないから。

あと数点取れば上位にはいれることだって大いにあり得る。その気持ちが、勉強を強制する。

数点の差を埋めるための努力が、星麗生のプライドを支えているのだ。

―――本当に、勉強をするための牢獄だな……

寮に帰る道すがら、考えたのはそんなことだった。たかが十数年の人生で、こんなに神経をすり減らす環境に何年もいるなんて、よほどの精神でなくてはやっていけないだろう。

「今度塾決めたら教えてよ。星麗生いるかどうか教えてあげるから」
「あぁ、助かる」

そんな会話をして、俺は寮の部屋の前で栗林と別れた。

部屋に戻った瞬間どっと疲れが押し寄せてきて、俺は玄関の前に座り込む。本当に昼に多めに買っておいてよかった。
食堂に行こうかと思ったが、一瞬考えてためらう。

ここの食堂は星麗生の生活リズムを考えて日付が変わるころまでは開けてくれているらしいが、そこに行くまでの距離を面倒だと感じてしまった。

―――もう、いいか。明日の朝食べよう…

眠気が波のように押し寄せてきて、俺は眠気と戦いながらそんなことを考える。

明日の予習をしないといけないからかなり早めに携帯のアラームをセットして。かろうじて制服をハンガーにかけ、簡易ベッドに横になったところで俺の記憶は途絶えたのだった……





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