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どれだけ優しくしたところで、宮本は雪を突き放す。きっと、俺が命令すれば雪でも殺せる。その事実を知って、俺は静かに背筋が震えた。

宮本は、いつまでも冷静だ。そうして、冷静すぎるがゆえに、その妄心的な忠誠心が際立つ。

宮本に雪をまかせたのは、わずかに期待があったからだ。

宮本なら、雪を解放できるのではないか、という期待は、高すぎる忠誠心をこえることは出来なかったようで。ともすれば雪にとってとても残酷なようにすら感じてしまう。

そんな会話をした後、俺は怒りにまかせて雪を殴ってしまった。

宮本の腹の内を聞かされ、それでも、会いに行った雪はすっかり宮本に懐いていて。

借金を徴収に来たヤクザに惜しげもなく笑顔を振りまく雪に、あのカスの姿がちらついた。

そうして、気が付いたら手は拳を作っていた。

苛立ちのままに雪を殴り、怒鳴り散らしてしまいたかった。

でも、出来なかった。

また裏切られているんだぞと、ぶちまけてしまえなかったのは、宮本に非がないからだ。そして、雪にいたっては完全なとばっちりである。

―――そう、すべての元凶はまた俺で。

宮本の忠誠心も、俺へのモノ。雪が物腰の柔らかな宮本に心を開くのも、当然のこと。それが許せなかったのは、俺のせい。

浅黒く腫れた雪の頬を見ながら、俺は自己嫌悪にとらわれて、そこから動けなくなってしまった。

投げつけるように濡れタオルを渡すと、そのまま逃げるように組に戻り。

―――殴った拳は少しも痛まないのに、どんなヤツを殺した後よりも後味が悪かった。

無意識に、自分の手を眺めながら、俺はぼんやり物思いにふける。

寝ることができなかった雪を抱きしめた記憶よりも、ガリガリの身体を殴りつけた記憶の方がこびりついて離れない。

こんな俺が、愛なんて。

好きだなんて、死んでも言えるものか。

自嘲の笑みを浮かべながら煙草をくわえようとしていると、不意に携帯がけたたましい音を立てて着信を知らせた。





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