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「―――もう!ヤナギさん!」
「んだよ、来てやったんだから飯ぐらい用意しろ」
「呼んでませんから」
呆れたような雪の声を聞きながら、俺は雪のアパートでくつろいでいた。
あれから、俺は何かというと雪の家に足を運んだ。借金の徴収が名目で、雪を見張るためだ。
先日、雪は二週間以上働かなかった。そのことで以前のバイト先の信用を落としてしまい、またバイト先を見つけたらしい。
最近では新聞配達をして、定食屋で働き、仮眠をしてから夜勤を行うという状態だった。当然、高校なんて当の昔に退学してしまっている。
そんな生活をしているのだから、またバイト先を追われるようなことになってはならない、と、俺は時間さえあれば雪を観察することにした。
せっかく俺が忙しいのを惜しんで足を運んでやっているんだから夕食ぐらい提供して欲しいものである。
「今日は何だ」
「定食屋さんでもらってきたまかないです!」
「怒ってんじゃねえよ。で、まかないの中身を聞いてるんだよ俺は」
「餃子とあんかけチャーハンです!もう、狭いんだから邪魔なんですよ!」
怒ってばかりの雪を『生意気だ』と小突くと、俺はそのまま畳の上にごろりと横たわった。
座布団すらもない、殺風景な部屋。西日が差しこむ窓だけが、唯一の暖をとる方法である。
こんな部屋、いくら金を積まれても住みたくない。
それでも、頑張れば数人で暮らせるこのアパートを引き払って1人暮らしをしないのは、雪の未練だろうか。
そういうところが、心底イライラする。
「お待たせしました。食べたらさっさと帰ってくださいね」
「へーへー」
ローテーブルに置かれたまかないを食べながら、俺は内心ため息をついた。
やっぱりこいつは、馬鹿なのだと。
愛なんて、追わなければいいのに。何度絶望を体験する気なんだ。
親しい友人も、頼れる親戚もいない、哀れな子供。もう暖房器具はなくなっても、食器は必ず複数そろえ用意されていて。
まだ、淡い期待に縋るようなことをする雪が、馬鹿で吐き気がした。
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