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「―――ヤナギさん、どこに行くんですか?」
「徴収」
「でしたらお供しますよ」
「ついてくんなクソが」
冬の寒い日。俺についてこようとする部下の宮本に短く言い捨てると、そのまま借金の徴収に向かった。
宮本は俺に出来た初めての直属部下で、以前シマ争いの折に傘下の組から預けられた男だ。
しかし、ヤクザには不似合いな落ち着いた物腰と、何を考えているか分からない胡散臭い笑顔が苦手で、俺はコイツから少し距離を取っていた。
それを勘づいているのか、どこでもついてきたがるアイツとの会話に内心辟易しながら俺は煙草に火をつけて歩き始めた。
寒いだのと泣きごとを言いたくないが、今日はとても冷え込んでいるようだ。吐く息が白く指先から感覚がなくなっていくのが何とも物悲しい、冬の夕暮れ。
空には灰色の雲が立ち込めていて、今晩は雪かもしれない。
そんな風に考えながら、俺はすっかり通い慣れてしまったぼろアパートの扉をたたいた。
借金の徴収に何年も通っていたことから、腐れ縁と言ってしまえばそうかもしれない。こんな縁などない方がいいと分かっているのに。
「――――っ!!」
普段とその日は様子が違った。いつもガキが怯えるように様子をうかがいに来るのに、今日はトタトタと軽い足音がしたかと思うと、急くように勢いよくドアが開いたのだ。
思わず勢いに一歩下がると、そこにいたのは相変わらずのガキで。
嬉しそうに上気した頬。瞳はキラキラと輝き、年相応のガキ臭さを見せている。いつも怯えたような顔か嫌悪感をあらわにした顔しか見たことがなかったから、思わず別人かと思ったほどだった。
「あ………」
そうして、朝比奈のガキは俺を見ると、思わずと言ったように小さく言葉を漏らした。
嬉しそうだった顔に、驚きと、諦めが広がって変な無表情になっていく。
そうして―――俺はガキの中に絶望を見た。
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