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「―――オイ、どうした」
『ヤナギさん!大変です、組の金が盗まれました!』
「分かった、すぐに行くから人数揃えとけ。―――足取りはつかめているのか?」
『はい、今なら港付近の倉庫に囲い込むことも可能です』
「よし、できる範囲でいい。確保できた車から追跡に向かえ」

着信をしてきたのは、傘下の組の部下だった。信頼できる人間にはどんなに下っ端だろうが連絡先を教えているので直通で連絡が来ることも珍しくない。

手っ取り早く宮本に連絡をすると、俺は自分の車で現場に向かう。少し離れた場所だったため時間がかかったが、なんとか日暮れまでには間に合ったようだ。

「―――ヤナギさん!」
「わりいな、遅くなって」
「いえ、すぐに来てくださってありがたいです」
「宮本がもうすぐ来る。そうしたら動くぞ。―――で、泥棒の身元は調べがついたか」
「はい。―――名前は朝比奈太一。無職でヤナギさんのところに多額の借金があります」
「――――――っ」

名前を聞いて、俺は目を見開いた。そんな俺の変化に気づかず、部下はさらに続ける。

「おそらく借金の返済の手が追いつかず、うちの金を横領しようとしたのでしょう。ウチがヤナギさんの組の傘下だと知らなかったのですから馬鹿な奴ですね」
「あぁ――――中村」
「はい」
「俺1人で行かせてくれ。向こうはせいぜいナイフぐらいだろうから、増援は倉庫の外で待機してればいい」
「え、ちょ!ヤナギさん!」
「――――行かせてやってください」

俺を引きとめようとする中村を、追いついた宮本がいさめる。宮本は大かたを把握しているようで、いつものように『気をつけて行ってくださいませ』と頭を下げただけだった。

「―――よぉ、久々だな朝比奈」
「………っ!」

倉庫に堂々と踏みいると、廃棄物に埋もれるようにして身をひそめていた朝比奈が身体を震わせる。

なんでオマエがいるんだ、そう雄弁に語りかけてくる瞳に、俺はニヤリと笑って銃口を向けた。

「オマエが金を奪ったのは、俺の傘下の組だ。―――経営不振への融資をしてた分を奪われたから、オマエが盗んだのは実質うちの組の金でね。さぁ、返してもらおうか」
「この……悪魔………っ!」

向けられた銃口と、突き付けられた現実に、朝比奈の表情が怒りに染まっていく。金を庇うように握りしめると、俺に向かって叫んだ。

「しょうがないだろ!金がないんだ!オマエは、これで助かる命があっても、この金が欲しいのか!」
「テメエはすでに1人殺してるだろうがよ!」





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