エピローグ




『今日は何時だ』
「今日?今日はライターさんとこの記事まとめたらすぐ帰れるよ」
『じゃあ定時だな』
「うん。夕飯何がいい?」
『うまいもん』
「……雑なリクエストどうもありがとう」

―――それから一年。俺は昴君のことを扱った記事が評価され、少しずつ取材の仕事をもらうようになっていった。

相変わらず師匠の仕事を手伝いながらだが、少しずつ自立出来ていることを感じさせてくれる仕事に、俺は言いようのない充実感を感じている。

昴君は、あれからも音楽活動を続けている。以前ほどのハイペースでコンサートを行うことは出来ないが、指の痛みをモノともしないようなパワフルな演奏で以前以上に注目されるようになり、海外留学の話も出ているほどだ。

ただ、昴君としては日本の音楽学校に行きたいようだった。海外ではつい無理をしてしまうだろうし、作曲家としての勉強をしたいそうだ。

海外にはいつか進出する心づもりらしいが、それは演奏家としてというよりも作曲家としてまた一からスタートしたい気持ちが大きいらしい。

―――そんな俺たちの生活は相変わらずだ。

『傍にいたい』なんて偉そうなことを言ってしまったけれど、俺の仕事が終わったら昴君の家に行ってご飯を作って、くだらないことを話して。

抱き合って、眠って。またお互いの道で頑張って。

でも、肌でお互いの気持ちを感じて、手をつないで道を歩いて。

そうして、俺たちは生きて行くのだろう。

『ナオ』
「ん?何?リクエスト決まった?」
『―――いや、やっぱいい』
「えー?じゃあ俺の方が言うよ?」
『勝手にしろよ』
「―――好きだよ、昴君」

職場だから、誰にも聞かれないように、こっそりと。

それでも、電話の向こうでガタンガタンと派手な音がしたから、俺は思わず笑ってしまう。

―――歩んで、進んで、少しずつ変化していく中で。

1年前から変わらない気持ち。

昴君が大事で、大好きで。

不器用でもいいよ、素直に愛情を伝えられなくてもいいよ。

『―――俺もだ』

―――たった一言でいいんだ。

たった一言でも言葉にしてくれるだけで、俺は君の心に触れられるのだから。君の気持ちを、少しずつおすそ分けしてもらえるのだから。

「ふふ、ありがとう」


電話口で叫ばれた言葉に、俺は嬉しくて微笑みながら、幸せをかみしめたのだった…





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