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俺は、昴君の名前を呼んで迷わずその腕の中に飛び込む。ギュッときつく抱きしめあった俺たちの足元で、大きな花束が落ちた音がした。
「かっこよかったよ…」
「当たり前だろ、俺なんだから」
「ちょっと前までウジウジしてたのは誰だよ」
「さぁなあ?」
ニヤニヤと笑ういつもの調子の昴君に、俺は胸がいっぱいになる。
「もう、相変わらず可愛くないな」
俺はふてくされたようにすると、自分で少しだけ背伸びをする。
すると、昴君は意味を察して身体を少しかがめてくれた。重なりあった唇に、俺はまた泣きそうになってしまう。
誓いのような、短いついばむようなキスを繰り返すと、俺は昴君の腕の中で小さく身じろぎする。
そうして、昴君の手を取ると、その指先にキスをした。
「…昴君の手が、好きだよ」
昴君の指は、今まで触れてきたどんな人の指よりも熱かった。炎症と痛みに耐えて俺に気持ちを伝えてくれた、静かな勲章。
以前無理矢理身体を開かされたとき、俺が指を噛んだのを拒んだ昴君。
昴君が俺を大事にしてくれたように、俺も昴君の指を大事にしたい。
「手だけなのかよ、ナオ」
昴君が、少し拗ねたように呟く。自分の指にも嫉妬してるのか、と思うと妙に可愛かった。
「……昴君はどうなの?」
「俺は言わなくても分かるだろ?」
「分かんない」
「…てめぇ、即答してんじゃねえよ。さっきのコンサート寝てたのか」
「寝てないよ。分かったけど、ちゃんと言って欲しい」
眉間にしわを寄せて拗ねる昴君に、俺は微笑みながらそういう。すると、昴君は少し迷って、視線をさまよわせた後、俺をギュッと抱きしめて小さく囁いた。
「―――ナオが好きだ」
―――うん、俺も大好きだよ。
そんな気持ちを込めて、俺は抱きしめられたまま昴君の頬に音を立ててキスをした。
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