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宗方さんと青年がそんな話をしているのを聞きながら、俺は朝倉昴に見入っていた。

レッスンと言うよりは自主練習のようで、講師のような人はいない。朝倉昴は踊るようなしぐさで、しかし力強く鍵盤に指を重ねていく。

奏でる和音にそっと目を閉じていると、とても心地がいい。だけど、それをしてしまうがもったいないくらい、朝倉昴には存在感がある。

演奏する姿も合わせて、視界からも訴えてくるミュージック。

撮りたい、と強烈に思った。

こんな人を取材できるのだ。師匠の言ったとおり、自分の強運に感謝しなければならない。

年が近くなければ、こんなチャンスはきっと巡ってこなかったのだ。

熱に浮かされたように、俺はそっと一眼レフをとりだした。宗方さんが『気合入っているな』とからかったけれど、それよりも朝倉昴の動きが止まったことに俺は目を丸くした。

そして、気だるげな視線がこちらに向けられ、俺は息をのむ。

「―――昴、今日の取材を担当して下さる宗方さんと高瀬さんだ」
「こんにちは、はじめまして。今回はよろしくお願いします」

青年に紹介してもらい、宗方さんとともに頭を下げる。

部屋に入り、朝倉昴に近づくと、朝倉昴は深いため息をついて立ち上がった。

「はぁ?取材するなんて言ってないだろ」
「それでも今回せっかく来てもらったんだ」
「せっかくもクソも、取材するなんて言ってないんだから俺には関係ないだろ。雨で鍵盤の感触も少し違うし、気分のらないから出ていって欲しんだけど」
「昴………」

心底嫌悪感をあらわにしている朝倉昴に、青年も呆れたようにため息をついた。

そんな緊張感を知ってか知らずか、とうの本人は我関せずを貫いている。おもむろに窓際まで歩み寄ると、こちらの方を見ないままずっと外を向いている。

そんな朝倉昴の態度に焦れたのだろう。青年は少し語調を強めて朝倉昴に詰め寄った。





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