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誰にも否定されたくなかった、もちろん、俺自身にも。

―――でも、ナオは見事に俺の心を解き放った。

大丈夫だと、閉ざした心を優しく開いていった。俺は意固地になる隙もないくらい、あっという間にナオに心を開いていた。

しかし、それは同時にナオの優しさに甘えていたんだと思う。

ナオが何をしても、『仕方ないな』という風に微笑むから。そうやって、許すから。

数え切れないほど最低なことをして、それでも俺に向き合ってくれたから。

そんなナオの優しさに癒されて今の俺があると同時に、俺は『一緒に歩んでもらえる』ほどの人間じゃないと思い知る。

ピアノが弾きたかった。裏を返せば、ピアノしかなかった。

ナオにしてあげられることも、きっとピアノ以上のことはない。

それでも、ナオが俺とともにいることを望んでくれるなら。

―――どんなに指が痛くても、ピアノを弾きたいと思った。

今までの、意固地な感情とは違う。ピアノだけで生きてきたから捨てられない、とかじゃなくて、自分の思いを伝えたいからピアノを弾きたいと思った。

それはきっと、変化した俺。変化したけど、ピアノを捨てない道を選んだ俺。

俺は自分でもわかるくらい素直じゃないから、ピアノだけでも、ナオに素直にささげたい。

シューマン夫妻のように、同じ道を歩むことはないけど、違う道でも、寄り添えると思っている。

―――ナオが、俺を望んでくれるなら。俺が、ナオを大事にしたいと思っているから。



そうしてコンサートの当日になって。俺のそんな気持ちは膨らむ一方だった。

憂鬱でしかなかったコンサートを前にして、久々にわくわくしている。

ナオに伝えたいことがたくさんあって、インタビューを受ける瞬間が待ち遠しかった。わずらわしさしか感じなかったのに、今では自分から申し出たいくらいだ。

世界中に聞いて欲しいんだ。

強く、優しくなった俺の音を。

―――ナオにもらった優しさと、俺の気持ちを。





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