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セリさんが意外そうに言うので、俺は思わず笑ってしまった。
そうして撮影が終わるまで残っていると、ようやく撮影が終わったようだった。
「あ、終わったみたいだね」
「はい。…すみませんセリさん、ちょっと片づけに行ってきますね」
「うん。俺も柊君のとこ行くから。それじゃ、お疲れさま」
「ありがとうございます」
俺は慌てて立ち上がると、セリさんに断りを入れて撮影所に向かう。
今日のスタジオはあまり広くなかったので本当に少数精鋭で撮影をした。そのため撮影が押してしまっていたのだが、それでもスタッフさんの満足そうな表情を見ていると上手くいったらしい。
俺はスタッフの皆さんにあいさつをしながら機材の片づけを始め、順番に車に積んでいく作業を黙々と行う。
「――――ナオ、ちょっと来い」
「なんですか?」
「つべこべ言うな、さっさと来い」
そうして片づけをしていると、師匠にぶっきらぼうに呼ばれた。
撮影を終えたばかりの師匠がいつも以上に愛想がなくなるのはいつものことなので特に気にしたりしない。
大人しく師匠に言われた通りついていくと、そこには確かに俺へのお客さんが居た。
「―――慧さん!」
「はい。お久しぶりです」
控え室の簡易パイプ椅子に優雅に腰掛けながら微笑む慧さんに、残っていたスタッフさんが顔を赤くする。
そんな様子を知ってか知らずか、慧さんは俺に一礼すると『どうぞ腰掛けてください』と近くにあったパイプ椅子を用意してきた。
俺はそれにありがたく座らせてもらうと、簡単に挨拶をして用件をうかがう。
「今日はどうなさったんですか?わざわざ撮影所に来て下さるなんて」
「会社をうかがったらここだと言われましたので。どうしても本人に渡したくて持ってきてしまいました」
慧さんはそういうと、胸のポケットから一枚の封筒を差し出した。
「これ……」
「ハイ。ぜひ来てください」
封筒の中身を開ければ、そこにあったのは昴君のコンサートのチケットだった。
俺でも知っているような有名コンサート会場で、しかも前列のとても良い席を用意されて、あまりの待遇に困惑してしまう。
「昴から、あなたにです」
そんな困惑を察したように、慧さんが微笑んだまま付け足す。
もとより断る気もなかったので、恐縮しながらもありがたくいただくことにした。
「あと、もうひとつ伝言です。カメラを持参でお願いします」
「え……」
「会社の方にはもう承諾をいただいています。コンサートが終わった後、昴のインタビューをお願いします」
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