何度でも言うよ
「―――どうしたの?何か落ち着かないね」
「セリさん」
―――あれから数日。俺のくらしは以前の状態に戻った。
もう仕事が終わっても昴君の家に行くこともないし、今まで通りの仕事量をこなしている。
師匠はなんとか俺に取材をもう一度チャレンジさせたいらしくて、知り合いのつてを頼って新人さんのインタビューをさせてもらえないかと頼んでくれているらしい。
それをこっそり聞いた時は、師匠の心遣いにちょっと泣きそうになった。
ますます師匠に対する尊敬の念が深くなり、さらに仕事を頑張ろうと思うのだけれど、つい昴君のことを思い出してしまう。
撮影見学に入れなくて終了を待つ間や、ふとした休憩時間。
気が緩んだと同時に思い出すのは昴君のことで。
昴君なら大丈夫だと思っているのに、気にしてしまうのは兄や親の心境だろうか。
セリさんにまで上の空であることを指摘され、俺は苦笑した。
「―――俺、そんなに分かりやすかったですか?」
「うん、まさに心ここにあらずー、って感じだった」
セリさんはいたずらっぽくそういいながらも、俺を心配そうにうかがっていた。この人のどこまでも他人を気遣える優しさには頭が上がらない。
セリさんは柊さんの撮影がそろそろ終わるのではないかということで迎えに来たらしいのだが、現在撮影が少し押している。
そしてそのことを話すと、『じゃあ一緒に待ってるね』と言って話し相手になってくれていたのだ。
「大丈夫?最近疲れてるの?」
「そういう訳じゃないんですけど……変ですよね、少しでも気が緩むと別のこと考えちゃうなんて」
「そんなことないよ。大事なことが出来るとみんなそうなっちゃうって」
セリさんはそういいながら微笑んで、俺の頭を撫でてくれる。
「ナオ君はずっと大人だからそういうことないのかと思ってた。新発見出来て嬉しいな」
「もう、からかわないでくださいよ」
「本気で言ってるのに」
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