5
昴君の一番の理解者は、昴君自身。
自分でもわからない気持ちって、実は心の奥底とか、無意識のうちにあると思う。
だけど、それが溢れてくるのは、まぎれもなく自分の内側からで。
自分の中にあるものなのだから、いつかきっと気づけるはず。
「俺は、昴君の中にある純粋な、綺麗な部分に惹かれるんだ。ピアノを通して伝わってくる、優しい感覚に」
昴君は、もう分かっている。
両親がどうしてあんな言葉を言ったのか。
慧さんが、どうして何も言わないのか。
『昴君を心配してくれている人がいるんだよ』って、両親は言いたかった。
『どんな選択をしても態度は変わらないんだ』って、慧さんは言いたかった。
そう分かっているから、無意識に自分の選択を『わからない』という。
自分の選択は、家族の思いを無下にしてしまうのではないか、そんな不安から、『頑張ってもいいのか』って悩むのだ。
純粋な優しさの溢れた、深い愛情。
だからこんなにも、心地がいい。
「……どんな選択をしても、俺は昴君の味方だよ。もし、昴君が許してくれるなら、これからもずっと、昴君の傍にいたい」
「ナオ…………」
「だから、怖がらないで。答えを、次のコンサートで教えて」
昴君は、俺の手をそっと握った。まるで二人で昴君の心に触れているようだ、と感じていると、昴君の目から一筋、涙が溢れた。
「……あ、チクショ…っ」
「昴君……」
「見んなよ、恥ずかしいだろっ」
昴君は慌てたように目をおさえると、ごしごしと擦って涙をなかったことにしてしまう。
そうして、少しかすれた声で『わかった』と頷いた。
「……約束だよ?」
「あぁ」
「…じゃあ、次に会うときはコンサートだね」
「約束だ」
昴君はそういうと、俺に顔を近づけてきた。突然のことに、俺は目を丸くする。
「ちょ、なんで顔近付けてくるの?」
「―――約束の後は、誓いの証だろ?」
そう言って意地悪に笑うと、昴君は俺をがっちり抱きしめて逃げられないようにしてしまう。
「もう、やっぱり昴君は昴君か」
「当たり前だ」
観念したように呟くと、すぐに昴君の吐息を感じて唇が重なる。
誓いのキスは、昴君の気持ちをそのままぶつけてくるようで、それでもとても優しくて。
俺の中に一滴の雫を落として、さざ波とともに静かに染みわたっていった。
―――昴君の一番の理解者は昴君。
だけど、少しでもその気持ちを共有できたらな、って俺の心が叫んでる。
昴君の純粋さに触れるたび、惹かれて行く自分がいて、どれだけ傷ついても、愛しく思えてきてしまうのだ。
素直じゃなくてもいい、意地悪でもいい。
―――だから、その純粋な心を、俺にも守らせてください。
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