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大して体重をかけていないのに、昴君はわざとらしく顔をしかめる。こんなやり取りが、最近の俺たちのじゃれあいとして定着しつつあった。
そうしていつものようにじゃれあいを済ませると、一言二言話しながら食事を終え、いつものようにリビングでくつろぐことになった。
「ナオ」
「なにー?」
「こっち来い」
俺は言われるままに、昴君の傍に行った。
すると、昴君はソファーを指さして『座れ』という。
俺は不思議に思いながらも言われた通りに座ると、目の前に立つ昴君を見つめた。
「どうしたの?いきなり改まって」
「――――ホラ」
そう言われて、手の中に渡されたものを見て俺は目を丸くした。
ずっしりと重い、黒の角ばったフォルム。傷の位置も、記憶のものと相違ない。
「……俺の、カメラ………っ」
ぽたり、と涙が溢れた。
帰ってきた、俺のカメラ。手の中になじむ感覚はとても懐かしく、離れていた分だけとても尊いもののように感じる。
最近の俺は、泣き虫だ。
でも、それくらい、感情が生きている。いろんなことに、焦って、怒って、感動して、悔しがって、悲しんで、喜んで。
だから、涙も複雑だ。
帰ってきた、大事なカメラ。―――それなのに、寂しいと思う自分が居る。
―――カメラが返ってきたということは、俺は昴君とお別れするのだ。
「……慧が、今日の朝持ってきた。修繕費は俺が持つから」
「うん……っ」
俺は、頷くので精一杯だった。涙がとめどなく溢れて来て、どうすることもできない。
「チッ」
期待通りの反応ではなかったからだろうか。
あまりにリアクションの薄い俺に焦れたのか、昴君は小さく舌打ちをした。
そうして―――俺を抱きしめた。
「泣くなよ……」
さっき感じた体温を身体中で感じて、俺はまた涙が流れた。
だから、今日昴君は落ち着きがなかったのか。
もう、俺が用済みになってしまうから。俺を解放するから。
「……本当は、返したくねえんだよ……っ」
昴君が、苦々しげにつぶやく。これは嘘でもからかいでもない、と俺は確信した。
だって、昴君は俺が顔を覗きこめないときに本音を言う。
だから、昴君は本当に返したくなかったんだ。
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