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一秒が一分にも一時間にも感じられる沈黙の中、俺は別のところに驚いていた。

―――今、名前、呼ばれた……

知り合ってからもうかなりの時間が経っているのに、昴君に名前を呼ばれたのは初めてだった。

その事実が、ただ名前を呼ばれただけだというのにとても大きな喜びを運んで来てくれる。

「―――何?昴君?」

思わず、笑顔で昴君に尋ね返せば、とたんに昴君は顔を真っ赤にした。

―――あぁ、そうか。

知りたい、理解したいと願うばかりで、俺に足りなかったこと。

―――言葉が、絶対的に足りなかった。

今日初めて、お互いの名前を呼んだ。

名前を呼ぶこともできないで、掃除をしながらただ遠くから見つめるばかりで。どうして昴君のことが理解できるのだろう。

俺たちには、言葉が足りなくて。

足りないことの方が多くて―――それでも、がむしゃらに求めていて。

今やっと、最初の一歩を踏み出せた気がした。

だからこんなにも嬉しい。

俺がニコニコしているのを見て、昴君が顔を真っ赤にしたまま俺の手を乱暴に振り払った。

「馬鹿面してんじゃねえよ!もういい!!どこでもいけよ!」
「なんで?俺昴君の話聞きたいよ」
「調子のんじゃねええええええ!」

昴君は顔を真っ赤にしたまま照れ隠しに全力を注いでいて、それがまたおかしかった。

やっぱり、彼はただ冷たいだけじゃなくて。

横暴だけど、視線を合わせればこんなに自然に、年下らしいかわいらしさを見せてくれる。

多分、さっきの行為は昴君にとって無意識で、気づいた途端恥ずかしい行為にカテゴライズされてしまったのだろう。

それでも、嬉しかった。

気づかなければいけなかったことに、やっと気づけた。

自分のことばかりで、お互いに目を合わせることを知らないで。

「……昴君、ありがとうね」

そういうと、昴君は微妙な顔になった。感謝されるとは思っていなかったらしい。

「コーヒーいれるから、ソファーでテレビ見ようよ。もっと一緒にいたいな」

俺が笑顔でそういうと、また昴君の顔に熱が集まる。それでも、重ねてお願いすると『今回だけ、特別だからな』と言ってくれた。

俺はそれにまた感謝して、昴君と一緒にいる時間を楽しんだのだった……





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