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俺が動かないのでイライラしたのだろう。昴君はそう言ってくる。

―――なんだろう、威嚇してる猫みたい……

俺の方を見ないくせに、俺の様子を全身で観察してくる。尻尾を立てて、でもこちらから意識を外したりしない。だから、無言に耐えきれなくなって俺に話しかけてくる。

話しかけないで様子をうかがうなんて、意地悪なことをしている自覚はあるものの、素直じゃないけど優しい昴君を可愛いと思った。

思わずわらいそうになるのを耐えるようにして、そそくさとキッチンに消える。

レンジの中にあった夕飯をそのまま温めてリビングに向かうと、昴君の前に座った。

「一緒に食べてもいい?」
「勝手にしろ。俺はもうすぐ食べ終わる」
「うそつき」
「う、うそじゃねえよ!育ちざかりなめんな」

昴君のお皿には、とてもすぐには食べきれないほどの夕飯がまだ残っている。

それを指摘すると、昴君はムキになって言い返して来た。自分でも変だとは思っていたらしい。

俺は笑いながら両手を合わせると『いただきます』と言ってから箸を持った。

「今日は慧さん来たんですか?」
「来たけど夕飯作らせようとしたら帰った。ほんと使えねーよな」
「そんなことないよ。たくさんお世話になってるし」

ここのところ一週間、慧さんは時間を見つけてはこちらに足を運んでくれていた。

普段はあまり家族でも寄りつかず、実質頻繁に来ているのは慧さんだけらしい。それでも、彼も週一回くればいい方だと言っていたので、すごく気を使わせてしまっているのが申し訳なかった。

俺の話し相手になってくれ、相談相手になってくれ、昴君とのパイプ役になってくれている。

いろんなことを話したけれど、物腰の柔らかさなど、まさに『いいお兄ちゃん』な計算には甘えてばかりだ。

「……俺も、お兄ちゃん欲しかったなー…」
「はぁ?」

一人っ子の俺からすると、あんなに無条件に甘えられる年上の存在は本当にうらやましい。

しかし、それを言うと昴君はあからさまに嫌そうに顔をしかめた。

「なんであんな口うるさいのが欲しいんだよ。絶対俺はいらないけどね」
「兄弟持ちはみんなそういうんだよ」
「みんな本気で言ってるんだよ」

馬鹿にしたように笑うと、昴君はまた食事を再開してしまう。

そうして、俺たちはぽつぽつと話しながら食事をしていた。盛り上がる訳でもなく、痛いくらいの沈黙が続くわけでもなく。

意外だったのは、昴君も話しかけてきてくれたことだ。今日は昴君が少し優しい気がして、ここぞとばかりに会話を楽しんだ。





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