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ナオの無事を確認したところで、この状態は頂けない。

勝手に風邪を引いてしまえ、と思うが、慧に知られたらきっと大目玉を食らう。
 
俺は今日何回目かのため息をつきながら、これまた何回目かの思いと間逆の行動を実行する。

幸い一階は客間がほとんどで、ナオが(頼んでないのに)綺麗にしているからすぐに別の部屋から毛布を持ってくることができた。

毛布をかけてやって、ナオの寝顔を覗き込む。疲れているのか、これだけ近づいても無防備に寝ているままだった。

心なしか顔色が悪そうなナオに、胸がざわつく。

普段の仕事も忙しいのだろうか。

それすらも、俺は知らない。カメラマンの見習いをしているらしいが、どこで、どんな風に働いているかなんて考えたこともなかった。

───ナオは俺を、知ろうとしてくれているのに?

そう考えて、俺は首を振った。

そんなの関係ない。ナオはナオ、俺は俺だ。ただ、───このままでいいのか?と訴える自分がいる。

分からないことだらけで、お互い嫌いなままで。

「───おや、お邪魔したかな?」
「っ!慧っ!」

そんなことを考えていた時、後ろから声がして俺は焦る。

慧は『起きてしまいますから』と人差し指を立てて俺を黙らせた。

ぐっと押し黙るとそのまま慧に導かれるままにリビングに戻り、ソファーに向かい合って座る。

「……最近仕事も忙しかったみたいだし、もし起きないようならあのまま泊めてやってくれ」
「言われなくても別に追い出したりしねーよ」
「うん、知ってるけどね。もしかして上手く行かないんじゃないかっていうのは杞憂だったよ」
「風邪引かないようにって思っただけだ、勘違いすんな」

慧の言葉に、俺はむくれながら答える。すると、慧は嬉しそうに微笑んだ。

「あの部屋まで彼を探して毛布をかけてくれたんだろ?彼もそれを知ったらきっと喜ぶ」
「適当なこと言うな」
「本当だ。彼とはよくお茶を飲んで話しているからね。……俺達家族はあまりここに来れないから、彼がここにいて、昴を気にかけてくれてありがたいよ」
「……。…なぁ、慧」
 
すっかりリラックスしている兄に、俺はポツリと呟く。

「───俺がしようとしていることは、無駄か?」

そう言うと、慧は驚いたようだった。しかし、いつもの胡散臭い笑顔に戻ると、残酷に口を開く。

「──俺も一応当事者だから、お前の納得のいく答えは出せないよ」

そう言って、ナオが寝ている部屋の方を見た。

ナオに聞けっていうのか。あの、甘ったれの理想論者に。

俺はまたため息をつくと、慧をじとっと睨んだ。

「怖いな。彼はとても親身になってくれると思うよ」
「──んなこと分かってるよ」

───あの部屋は、俺のレッスン室の真下だ。

もしかしたら───窓を開け放した状態から聞こえてくるピアノの音を聞いていたのかもしれない。

そう思うと、疲れた寝顔のナオが思い出されて、胸が苦しかった。

俺が欲しいのは、慰めじゃない。

それなのに、ナオに縋ろうとする都合のいい自分がいるんだ。
 

───俺は一体、彼をどうしたいのだろう。





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