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「とりあえず、昴が何か命令をしたらそれに付き合ってやってください。それ以外は、この家の管理をお任せしてもいいですか?」
「管理?」
「ええ。さっきお話しした通り、昴はあの部屋以外はほとんど使いません。ですから、他の部屋の掃除や、庭の手入れなどをお願いしてもいいですか?」
「そんなことでいいんですか?」

俺は思わずそう聞き返してしまった。本当に雑用というか、まるで家政夫のようである。

しかし、慧さんはおかしそうに笑いながら頷いた。

「俺も普段から昴の世話にかかりきりにはなれませんから、毎日少しでも顔をのぞかせて、ついでに部屋を綺麗にしてくれたら文句はありません」
「はぁ……」
「それでは、よろしくお願いしますね。俺は先ほど呼ばれてしまったので職場に戻りますが、何かあったらこちらに連絡してください」

そう言って、慧さんが名刺をさしだしてきたので、俺は大人しくそれを受け取った。

そこには俺でも知っている製薬会社の名前があって、また俺は驚かされたのだった。

「朝倉の系列がやっている会社なので、ちょっとした役職につかせていただいてます。こちらに電話いただければすぐにスタッフが俺に連絡を回しますから。わがままに付き合いきれなくなったら遠慮なく連絡してくださいね」
「はい…」
「では、失礼しますね」

慧さんはそういうと、今度こそ部屋を出て行ってしまった。

俺はリビングに1人残されて途方にくれながら、ソファーにふっと腰をおろした。

朝倉昴は二階にいるらしいが、防音設備が整ったこの部屋では一切ピアノの音は聞こえてこない。

取材抜きにしても、あの心に訴えてくるピアノの音を思い浮かべて、俺は深々とため息をついた。

あんな綺麗な音を出す人と同じ空間にいることが信じられないくらいで、本当は1人ぼっちにさせられてしまったんじゃないか、と妙な焦燥感を感じてしまう。

「―――っ!ダメダメ、ちゃんとやるって決めたんだから!」

俺は自分を奮い立たせるようにそういうと、ソファーから勢いよく立ちあがって気合を入れた。

とりあえず慧さんに言われたことはしよう、とソファーに荷物を置いたまま掃除用具を探し始める。

リビングの掃除用具がら一応掃除道具を発見すると、俺は腕をまくって掃除に取りかかった。

慧さんの言うとおり、この家はとても広かった。しかも、使っていない部屋の方が多いので、すべての部屋を把握するだけでも骨が折れそうである。

「……負けるな、俺」

まずは一階から制覇しようと箒を握りしめると、そのまま掃除を開始した。





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