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―――目を開けると、そこは病院のようだった。

腕にはギプスがしっかり巻かれていて、反対の腕には点滴が取り付けられている。

「―――雪っ」
「…と、うじさん……?」

なんで冬慈さんがここにいるんだろう。都合のいい夢だろうか。

僕がぶわっと溢れて来た涙で視界を滲ませていると、冬慈さんの指が涙をぬぐってくれた。

「夢じゃ、ない……っ」
「当たり前だ。―――会いたかったよ」

額を重ね合わせるようにして、冬慈さんが僕を見つめてくれる。忘れかけていた冬慈さんの優しい香りに包まれて、僕は涙を流しながら目を閉じた。

「…右腕の骨折と、急性腹膜炎らしい。激しく殴られたせいで腹膜が破けていて、かなり危なかったようだ」

コイツが俺を呼ぶ程度にはな、と後ろを振り返れば、不機嫌そうに顔をゆがめたヤナギさんが立っていた。

「死に際ぐらい立ち合わせてやろうと思ったら―――コイツが来たとたん、急に持ち直しやがって」
「そんないい方はないだろう」

心底嫌そうなヤナギさんに、冬慈さんはそう言い返す。

「――あ、でも、入院費…」
「それくらい俺に出させろ。…待つとはいったが、待つ側の気持ちも考えてくれ。久々に肝を冷やしたぞ」
「ごめんなさい…」
「本当だ。もうオマエのいうことは聞いてやらないからな」
「え……」

冬慈さんはそういったかと思うと、ヤナギさんを睨みつけて、こういった。

「―――オマエのところには雪を預けられない。全財産を積んでもいい、雪を返してくれ」
「……そう簡単にいくと思うか?」
「いってもらわなきゃ困る」

冬慈さんはそういったかと思うと、ヤナギさんを力いっぱい殴った。

あまりに突然の出来事で、僕は目を丸くする。

冬慈さんはヤナギさんの胸倉を掴んで、唸るように言った。

「俺が何も知らないと思うなよ。―――調べているうちに、雪の父親が死んでいることを知った。後乗せの300万円は無効なはずだ。雪の借金は先月の稼ぎですでにゼロだと思うが?」
「親が盗もうとした借金は血まみれで使い物にならなくてな。迷惑ついでに上乗せしてやっただけだ」
「それは勝手に決めたことだろう!契約は無効だ!雪はもう自由なはずだ」
「それは違うな。――コイツの父親、いざ撃ち殺そうと思ったら『雪をやるから殺さないでくれ』と来たんだ。雪は俺たちのところに所有権がある」
「雪はモノじゃない!権利があったらこんなにぼろぼろになるまで酷使していいと思っているのか!?」
「やめてください!」





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