10
―――あ、と思った。
冬慈さんの声が、どこからかする。…どこから?
声に惹かれるままに、僕は大通りに歩いて出た。
そこにあったのは駅前の大きな電光パネルで、テレビを中継しているのか、そこには見覚えのあるニュースキャスターの隣に座る冬慈さんの姿が見えた。
「―――冬慈さん…っ」
冬慈さんが、笑ってくれている。
僕が願えば、会いに来てくれるのだ。画面越しでも、声を届けてくれるのだ。
さっきとは違う、涙が溢れた。
体中に、愛しさが駆け巡る。
さっきまで空っぽだった僕に、いろんな力が満ちてくる。
冬慈さんの姿を目に焼きつけたくて、僕は涙をぬぐってパネルが良く見える近くのベンチに座る。
「――あのひと、最近毎日テレビに出てるよね」
「前から人気はあったみたいだけど、テレビ断ってたので有名だったのに」
「ねぇ、今日も言うかな?」
「いうんじゃない?」
通り抜ける通行人の声が聞こえてくる。
僕はと言えば、冬慈さんの一挙一動を逃さないように、じっと食い入るように画面を見ていた。
―――あ、ネクタイピン…
画面でぼやけてほとんど見えないけど、一瞬アップで映った時に見えたピンクゴールドのあれは、僕があげたものだ。
大事に、してくれているんだ…
『さて、今日はここまでです。辰巳さん、ありがとうございました!』
「ありがとうございました」
『さて、今日も恒例のアレ、出ますか?』
「はい」
さっきの通行人が言っていたヤツのことだろうか。
最近テレビさえまともに見ていない僕は、訳が分からなくて首をかしげる。
すると、冬慈さんは画面に向かって、微笑みながらこう言ったのだ。
「……いつまでだって、待ってるよ」
[ 86/90 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
top