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―――え………
僕は言われた言葉の意味が分からず、さらに耳をすませた。
「300万盗もうとしたところを、若頭がズドンッだもんな。―――ま、そんなこと言えないよな」
「血まみれの金は使い物にならねえし…迷惑料を償ってるつもりなんじゃね、アイツ」
そんな……事って………
じゃあ、僕は何のためにここにいるんだ。
僕は、本当の親離れがしたくて、ここにいるのに。
その親は、もういないなんて――――
ふらり、と僕は立ち上がる。
もう限界だった。
どこでもいい、ここにいたくなかった。
僕がやってきたことの意味は、何だったのだろう。
誰か、教えてほしい。
「タツミさん…タツミさ……」
僕は、自然とタツミさんを求めていた。
扉に手をかけ、誰もいないのをいいことに組を後にする。
地理感覚なんて全くないけれど、とにかく明るい方を目指して歩いた。
ふらふらと歩きながらぶつぶつ呟いている僕は、さぞかし奇妙に映っていることだろう。
それでも、そんなことにかまっていられるほど、僕は余裕がなかった。
―――タツミさんに、会いたい。
充電してほしい、頑張る勇気を、頑張る意味を、もう一度、僕に与えてほしい。
もう、優しい腕に抱きしめられた感触さえ、おぼろげで。
涙が溢れてきて止まらなかった。
タツミさん、タツミさん―――冬慈さん…
「―――さて、今日のゲストは最近注目の起業家、辰巳冬慈さんですっ!」
「こんにちは」
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