9
「―――僕は、冬慈さんが好きです。僕の幸せには冬慈さんが傍にいてほしくて、傍にいれなくても、笑っていてほしいんです」
僕が選ぶ幸せは、冬慈さんの隣で、笑って過ごしたい。
そうして、ほんの少しでもいいから、冬慈さんに『一緒にいて良かった』と思ってほしい。
そういう風に、思ってもらえるような人になりたい―――
そこまで考えたところで、冬慈さんから痛いくらいの力で抱きしめてもらえて、これ以上なく幸せだった。
「…雪、いつまでだって待つよ。お前が思っているよりずっと―――お前のことが好きなんだから」
「冬慈さん……っ」
僕たちは、どちらからともなく唇を合わせた。
何度も深いキスをしてきたのに、ただ唇を重ねるだけのキスがとても尊いもののように思えた。
大丈夫、僕はまだ頑張れる。
この約束があれば、たとえ僕が僕として生きられなくなったとしても、光を見失わなくて済む。
「…今日は、ひどいことを言ってごめんなさい」
「いいさ。…今日はもう帰るけど、また会いにくるよ。―――アイツに何かされたら言えよ?」
「はい……っ」
僕は僕の幸せを、僕の力で手に入れる。
終わりなんて来させない。
そこにあるのは―――本当に『僕』が望む幸せのための試練。
[ 76/90 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
top