7




僕の人生は、お金を稼いで、親の借金を消すことだけでできていた。

そうして生きて来たことが、一瞬の、ほんの口約束で、あっさりと無くなる―――その事実が、僕を喜べなくする。

本当に親のことを思うのなら、自分がどんな目にあったって、プライドも何もかもかなぐり捨てて、タツミさんに縋りつくことをしていたはずだ。

だけど、それをしなかったのは―――僕の手で、借金を返したかったから。

僕が一人でできれば、親は僕を見てくれるかもしれない。帰ってきてくれるかもしれない。

僕のあこがれた、幸せな家族になれるかもしれない。

そうして、親の幸せを口で願いながら、僕の願いを叶えようとしていたのだ。

結局、僕の心はまだ、あの誰も帰ってこない部屋の中にいるんだ―――

「―――雪っ!!」
「来ないでくださいっ!」

追いかけてきてくれたのだろう、タツミさんの声がする。

だけど、僕はとてもじゃないけど顔を見せることができなくて、そう叫ぶしかできなかった。

「僕は、タツミさんがそこまで思ってくれるほどの人間じゃないんですっ!」
「…そうしたら近づいたらいけないって言うのか」

予想外に近くからタツミさんの声がして、僕はびくりと震える。

恐る恐る顔をあげれば、ずっとこっちに向かってきているタツミさんがいた。

「…こ、来ないでください…っ」
「嫌だ」
「タツミさんは雲の上の人で、本当は会っちゃいけなかったんです」
「――そんなことないって言ってくれたじゃないか!」

タツミさんは普段の穏やかさが嘘のように、苛立ちを隠しもせず叫ぶ。

僕があまりの勢いに身体を震わせてギュッと目を閉じていると、温かいものに身体を包まれた。






[ 74/90 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -