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僕の人生は、お金を稼いで、親の借金を消すことだけでできていた。
そうして生きて来たことが、一瞬の、ほんの口約束で、あっさりと無くなる―――その事実が、僕を喜べなくする。
本当に親のことを思うのなら、自分がどんな目にあったって、プライドも何もかもかなぐり捨てて、タツミさんに縋りつくことをしていたはずだ。
だけど、それをしなかったのは―――僕の手で、借金を返したかったから。
僕が一人でできれば、親は僕を見てくれるかもしれない。帰ってきてくれるかもしれない。
僕のあこがれた、幸せな家族になれるかもしれない。
そうして、親の幸せを口で願いながら、僕の願いを叶えようとしていたのだ。
結局、僕の心はまだ、あの誰も帰ってこない部屋の中にいるんだ―――
「―――雪っ!!」
「来ないでくださいっ!」
追いかけてきてくれたのだろう、タツミさんの声がする。
だけど、僕はとてもじゃないけど顔を見せることができなくて、そう叫ぶしかできなかった。
「僕は、タツミさんがそこまで思ってくれるほどの人間じゃないんですっ!」
「…そうしたら近づいたらいけないって言うのか」
予想外に近くからタツミさんの声がして、僕はびくりと震える。
恐る恐る顔をあげれば、ずっとこっちに向かってきているタツミさんがいた。
「…こ、来ないでください…っ」
「嫌だ」
「タツミさんは雲の上の人で、本当は会っちゃいけなかったんです」
「――そんなことないって言ってくれたじゃないか!」
タツミさんは普段の穏やかさが嘘のように、苛立ちを隠しもせず叫ぶ。
僕があまりの勢いに身体を震わせてギュッと目を閉じていると、温かいものに身体を包まれた。
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