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二人の会話に、僕は驚きを隠せない。

先週もここで出会っていたらしい二人と、交わされていた内容。

僕は二人に腕を掴まれながら成り行きを見守ることしかできず、タツミさんが無事であることばかりを祈っていた。

「だいたい、俺もお前も一緒だろ?結局、金でコイツをどうこうしようとしているんだからな」
「貴様と一緒にするな。俺は雪を大事に思っている」
「俺だって大事な借金の返済者様だから大事にしてるが?」
「それじゃ金づると一緒じゃないか」
「お前だってそうだろ?金で評価を買ってるんだ。その話を雪にしてやらなかったのがいい例だ。結局誰にでもいいツラがしたいだけなんだよ、オマエはよ!」
「―――もう、止めてください!」

どんどん熱を帯びていく口調に、これ以上は喧嘩に発展してかねない。僕は二人の腕を振り払うと、タツミさんに短くいった。

「…これは、僕の問題です」
「雪……」
「ヤナギさん、すぐにお酒を用意しますので、先に席で待っていてください。タツミさん、あんまり相手できなくてごめんなさい」
「雪っ!」

僕はそれだけ言うと、店長の横をすり抜けて裏口から出ていく。

タツミさんの声が聞こえて、涙が溢れて来た。

でも、僕は、気づいてしまったのだ―――僕自身の、汚さに。

「うっ、うあああああああああっ!!」

僕は溢れる涙をぬぐいもせず、泣きながらに叫んだ。

タツミさんが、借金を肩代わりしてくれる、と言ってくれたとき、素直に喜べない自分がいた。

そこにあったのは、タツミさんに対する申し訳なさではない。


―――僕は、僕で生きられなくなることの恐怖に怯えていた。






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