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呆れたようにため息をつく店長に、タツミさんは堂々とそう返し、あまつさえ『ケチになったな』と冗談交じりに店長をからかう。
店長が『ばかやろう』と悪態をついて奥に消えてしまうと、タツミさんは僕に優しくほほ笑んでくれる。
「また顔が見れて安心したよ。まだ顔色悪いが、辛くなったら無理しないで言ってくれ」
「そんな……」
僕は、胸の奥が痛むような気がした。
こんなに良くしてくれているのに―――さらにそんな好意に甘えようとしてるなんて。
僕は、ひどくずるい。
「ほら、ヒナ。ポタージュスープだ」
「俺へのドリンクは?」
「知るか」
「ひでー」
「あのっ、良かったら一口どうぞ」
ささやかな店長の報復に拗ねていたタツミさんに、スープをすくってスプーンを差し出す。
「なんだ、あーんしてくれるのか」
「あ……っ」
そんなつもりはなかったが、実際そういう風になってしまった。
何気なくした行為が、急に恥ずかしくなってくる。
僕は頬を真っ赤に染めて、かといってスプーンを下げることもできず、そのまま硬直する。
タツミさんはそんな僕をみて、嬉しそうにスプーンに口をつけてくれた。
「…旨いな。ヒナも食べてみろ、ミルクの風味がいいから」
「はい」
お返しのようにスプーンを差し出され、僕は大人しく口をつける。
言われた通りミルクの風味がとてもよく、マイルドで僕の身体に染みわたっていくようだった。
思わず笑顔になった僕に、タツミさんは嬉しそうにしてくれる。それを見ていた店長が『犯罪臭い…』と呟いたのがおかしかった。
「―――よぉ、楽しそうだな」
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