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タツミさんは心配してくれていたと店長が教えてくれたけど、お見舞いは丁重にお断りしてもらった。
―――あの日、もしタツミさんの顔を見ていたら、泣いてしまっていたかもしれないから……。
最近の僕は、本当に弱くていけない。
前はどんなにヤナギさんにきつく当たられても、泣くことなんてなかったのに。
借金を返す―――それだけを考えていたから、プレゼントを買うことも、それを踏みにじられて泣くこともなかったのに。
それでも、会いたいなんて―――
カランカラン、とドアのベルが鳴る。僕はそこにタツミさんの姿を見つけて、胸がギュッとなった。
「……タツミさんっ!」
会いたかった、話がしたかった、って心が叫んでる。
その衝動に突き動かされるまま僕はタツミさんに抱きついた。
「―――よぉ、ヒナ。風邪はもう大丈夫か?」
「はいっ、もうすっかり大丈夫です」
「それは良かった」
僕は自然と笑顔になって、タツミさんをカウンターに案内する。
「イズミ、今日はノンアルコールだ。ヒナには温かいスープにしてくれ」
「え……」
カウンターに座り、当然のごとくそう言われ、僕は驚きに目を丸くする。
「まだ顔色が良くない。今日はのんびり話してくれればいいから」
タツミさんは当然のごとくそう言ってくれ、僕は言葉に詰まる。
本当に、いろんな人に心配されて自分が情けない。
「オマエここがバーだって覚えてるか?定食屋じゃないんだが」
「でも置いてあるだろうが。この前の取材でチャラだ」
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