1(タツミ×)
そのまま引きずられるようにして近場のホテルに引き入れられ、気がつけばあれよあれよという間にシャワーを浴びせられていた。
シャワーから出て、所在なさげにしているところをタツミさんに見つかり、僕は手招かれるままにベッドに腰かけていた彼のもとへ行く。
「んな突っ立ってないで、座れ」
「はい…」
タツミさんは武骨な手でビールをあおり、一息すると口を開いた。
「このホテル、俺が経営してるんだ。今日はスイートの利用者がいなかったからな、勝手に酒を持って来たんだ。飲むか?」
そう言ってグラスを差し出され、とりあえず受け取ってはみたものの困惑してタツミさんを見てしまう。
そんな反応に、タツミさんは困ったように笑った。
「まだまだ顔が硬い。ま、さすがに今からやられるっていうのに、無理か」
「……すみません」
「いーよ、謝ってほしいわけじゃねえし。妙に達観した可愛げのないクソガキじゃないってわかっただけで十分だ」
「クソガキって…僕は二十二です」
「俺からしたらまだまだクソガキだよ。―――ま、予想以上に年食ってたけどな」
この人は未成年だと思っていながらグラスを差し出したのだろうか。まぁ、今更過ぎて突っ込む気にもならないけど
結局、タツミさんは僕が困っているのを見かねてグラスを取り上げてくれた。
自身の持っていたビールもべットサイドに置き、流れるようなしぐさで僕をベットに押し倒した。
「…怖いか?」
「怖くないです」
「嘘つけ」
顎を掴まれ、覗き込むように視線を合わせられれば、なぜだか恥ずかしくなって顔をそらしてしまう。横を向いてしまった僕の髪の毛を、タツミさんは優しくすいてくれた。
……まるで、素直になれと言っているようだ。
「―――僕を、抱いてください。でも、僕は、あなたに幻滅されたくない…」
思わず口を突いて出た言葉は、きっとよわよわしいものだっただろう。だけど、この距離で聞き逃されるわけがない。
「…お前が素直にしてれば、幻滅したりしない」
そういいながら、こめかみにキスをされる。なんてこの人は、甘やかすのがうまいのだろう。
まるで愛されているのだと錯覚してしまいそう。
―――今だけ、この夢のような優しさを、素直に感じてしまいたい。身を任せてしまいたい。
僕は恐る恐る、顔をタツミさんに向けた。タツミさんは満足げに笑って、僕の服に手をかける。
「いい子だ。―――ハジメテのヤツっていうのは、これから先も特別だろうな。お前にとっての俺がそうであるように、俺にとってのお前もそうだ」
だから、優しくする―――そう言われたのかはよく分からない。
だって、すぐに僕の唇はタツミさんのものでふさがれてしまったのだから。
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