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冬入りで凍るほどに冷たい水の中に入り、噴水の水に打たれながら箱を探す。

ふやけて文字さえ読めなくなったメッセージカードが流れに漂っているのを見て、僕は涙が溢れてくるのを感じた。

―――探さなくちゃ。見つけなくちゃ。

僕のささやかな想いすら、もってはいけないのか。圧倒的な暴力によってみじめに消えようとするその事実に抗うように、僕は体震えるのにも構わず探し続けた。

薄暗いせいで、上手く探せない。指がかじかんで、思うように動かない。

だから、冬はきらいなのだ。夏ならもっと、簡単なことだったのに。

捨てられていく僕の気持ちに、嫌な思い出を重ねなくて済むのに―――

「―――あった!」

噴水の排水溝の近く、ぐしゃぐしゃのラッピングと、ふやけてしまった箱が見えて、僕は上着が濡れてしまうのもかまわず、そこにしゃがみこんだ。

拾い上げて中身を確認すれば、濡れてしまってはいるものの装飾も崩れていない。

良かった、と思うより早く、ヤナギさんの足が飛んできた。僕は受け身を取ることもできず、そのまま噴水の中に倒れてしまう。

「―――1カ月だ」

ガチガチと震える身体を抱きしめるように見上げれば、薄暗い中でヤナギさんが起っているのが見えた。

どんな顔をしているのかは分からないが、淡々とした口調でさらに続ける。

「1カ月で100万円用意しろ。それができたらこのことはなかったことにしてやる。出来なかったら―――俺らの組に、軟禁だ」

ヤナギさんの口元が、小さく歪んだ気がした。

僕は告げられた事実についていけず、ヤナギさんを見上げることしかできない。

「お前ら親子は本当に信用ならねえからな。いっそその身で借金分組に尽くせ。そうしたら、お前のクソオヤジがいくら借金してきても不問にしてやるよ」
「そんな……」
「当然、お前の今の稼ぎなら無理だよな?―――悔しかったら、せめてひと月でも、俺の言うとおり客に貢がれてろよ」

さらにもう一発蹴りをもらい、僕は噴水の中に沈む。

ヤナギさんはそんな僕を見て、興味を失くしたかのように暗闇に消えた。

僕はと言えば、茫然として言葉もない。

ただ、手の中に残るネクタイピンの感触に、涙が溢れて来た。

無事だった、大事な贈り物。でも、箱もメッセージもなくなって、丸裸の状態では渡すこともできない。

「ふっ、うぅ、うっ」

僕はそのまま泣くことしかできなかった。

涙が溢れてきてどうしようもなかった。


―――僕が僕で生きられる時間の、終わりへのカウントダウンが始まった。




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