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僕はそうして結局スーツにすることにしたが、スーツは僕の想像以上に高くて、僕の持ってきたお金では買うことができない。
どうしようか、と迷っていると、店員さんが声をかけてくれた。
「スーツをお探しですか?」
「……えっと、はい。贈り物なんですけど、あまりお金を持ってきてなくて」
「それでしたら、ネクタイピンなどはいかがでしょうか?」
「えっ」
僕が店員さんの言葉に目を丸くしていると、店員さんはレジの近くにあるガラスケースまで僕を案内してくれた。
「こちらはブランド物になりますが、小物ですのでスーツよりもずっと割安ですよ。最近ではずいぶんと細かいデザインのものもありますし」
「本当ですね……どれも綺麗です」
確かに、ガラスケースの中は綺麗なデザインのネクタイピンとカフスボタンで溢れていた。
スタンダードなシルバーから、綺麗なゴールドやピンクゴールド、プラチナ加工まで。
中でも、僕の目を引いたのはプラチナとピンクゴールドがセットのネクタイピンだった。
本体の部分に細やかな彫り物が施されていて、控え目に花のアクセントが付いている。あまり派手ではないものの、タツミさんがつけているところを想像して、僕はこれにしようと決めた。
幸い値段も持ってきた分で事足りて、僕は店員さんに向きなおる。
「これにします」
「はい、ありがとうございます。ラッピングの上にメッセージカードもご用意できますが、どうなさいますか?」
「……はい、お願いします」
一瞬迷ったが、僕は笑顔でうなずいた。
店員さんは手慣れたしぐさでメッセージカードのサンプルを持ってきてくれ、僕は店員さんと話しながら結局青のシンプルなものにした。
メッセージを書いて店員さんに渡せば、上等なラッピングの上にそれを添えてくれた。
「きっと喜んでくださいますよ。……またのおこしを、お待ちしております」
店員さんに笑顔で見送られ、僕はデパートを後にする。
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