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「……悪かったな、最近会えなくて」
「いえ、仕事が優先なのは当然ですから」
「ちょっとは妬いてくれていいのにな…」
「ふふ…。冬慈さんがいない間、僕もお仕事がんばってましたから」
「そういえばホテルの方はどうだ。慣れたか?」
「はい、とっても」
僕はそう頷くと、腕まくりをして見せた。
ホテルの仕事の方はいろんな人に助けられながらこれ以上ないくらい順調である。
ユウイチさんをはじめ、他の従業員の方々もこれ以上ないくらい良くしてくれている。
この前など、ランチの残りを分けてくれたりしたし、先に終わっていたパートの方が一緒に食べようと誘ってくれたりした。
その時に今まで分からなかったことなどを聞くことができたし、確実に仕事をこなしていくスピードが速くなっていっていて、僕も自身が付いていた。
「そうか。小宮も褒めていたよ。呑み込みが早いと」
「よかったです。―――そういえば、この前ホテルの雑誌で冬慈さんの記事を読みましたよ」
僕がそういうと、冬慈さんは小さく苦笑した。
冬慈さんが載っていたのはビジネスマン向けの雑誌で、『期待のイケメン企業家、辰巳冬慈に迫る!』というあおりが堂々と載っていて、僕は思わずそれを手に取っていた。
「―――小宮が『社長が載っているのにおかないなんておかしい』と聞かなくてな…。俺としてはかなり不本意なんだが」
「でも、かなり特集されてて、すごいなぁと思いましたよ」
「普段は絶対取材なんて受けないんだ。そんな暇あったら仕事してる。ただ、あの記事を書いたのはイズミの知り合いでな。『取材させないとバーに出禁にする』と脅されたよ」
大げさにため息をついて見せる冬慈さんに、僕はくすくすと笑った。
それでも、僕はあの記事を見て、本当に冬慈さんはすごい人だと思った。
大学を出てから独学で起業して、幅広く展開を広げていくハングリーさと、それをやってのける手腕。
さすがとしか言いようがなくて、改めて尊敬したものだ。
「あの記事を見たら、『恐れ多くて会いづらい』と言いだすんじゃないかと思ったよ」
「実は少し思ってますよ。でも、やっぱり会いたいので」
僕のわがままに付き合ってくださりありがとうございます、と頭を下げると、今度は口にキスが降ってきた。
僕はそれに目を閉じて応えると、冬慈さんはとびきりの笑顔で笑った。
「…お前が可愛くて仕方がないよ。このままここに住んでしまえ」
「お世辞でも嬉しいです」
「結構本気だ」
「ふふ、ありがとうございます」
もう十分幸せなのに、どうしてこんなに嬉しい言葉をたくさんくれるんだろう。
会いたいなんて、僕のわがままでしかないのに。
恐れ多い、っていう気持ちがあったのに、やっぱり会いたい気持ちが勝って。
本来ならば雲の上の人なのに。
忙しい時間を縫って会いに来てくれるこの愛しい人に、僕は何ができるのかな。
僕はそんなことを考えながら、冬慈さんの腕の中で眠りについた…。
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