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そんな店長の計らいもあって、初日の勤務はつつがなく終わった。

僕は本当に皿洗いをするだけでよかったし、たまに任される雑用なんかもむちゃな要求をされるようなものではなかった。

僕はやはりゲテモノらしく、興味深げな視線を向けられることはあっても話しかけられる事はなかったし、ひどく汚らわしいものを見るような視線のほうが多かった。

僕は感情がないわけではないからさすがにへこむけれど、先輩たちのきらびやかな容姿に見慣れているお客様に文句を言うこともできず、心の中でそっと溜息をつくだけだ。


……そばかすさえなければ―――いや、ダメか…


ぴかぴかに磨かれたシンクに映るぼやけた僕の顔は、本当にいいところがない。

こんなんじゃ、仕込みの方にも愛想をつかされそうだ。

「ヒナ、裏方の片付け終わったら出てきて」
「はい。今終わったので行きます」

ついにこの時が来てしまった、と僕はギュッと手を握った。

不安に押しつぶされそうになりながら、キッチンの戸締り消灯を済ませカウンターに行く。

先輩たちはとっくの昔に帰るかお持ち帰りかされていて、カウンターには店長と見知らぬ男の人がいた。

僕よりは十以上年上だろう、落ち着いた大人の雰囲気を醸し出している男性。店長よりは年下だろうが、まるで往年来の友人のように仲がよさげだ。

額にかからないように撫でつけられた黒髪、射るような鋭い切れ長の目、シャープなフェイスラインに縁取られた顔立ちはこれ以上ないほど男前だ。

「あ、来た。タツミ、彼がヒナだよ」
「はじめまして」

恐る恐る近づけば店長が紹介してくれて、僕は深々と頭を下げる。タツミさん―――どんな字を書くのだろうか。

簡単に挨拶を返すと、タツミさんは僕を品定めするように上から下までじっくり眺めている。

侮蔑の表情ではなく、純粋に商品を品定めするようなしぐさだ。さしずめ僕は値段もつけられないようなアウトレットなのだろうが。

「イズミ、髪の毛ぐらいさっぱりしてやれよ。こんな野暮ったいと顔が見えないだろうが」
「いきなりそこかよ」

「顔見ないとヤッてるときにそそられないだろ」

店長、イズミさんっていうんだ、と感想を抱いていると、ぐしゃぐしゃと頭をかき混ぜられ、前髪をかきあげられた。隠すものも何もなく、そのままタツミさんにみられて、さっと顔に朱がさす。

「とりあえず今日はこのままで……明日は美容室だな。しっかり付き合えよ」
「あの…僕お金ないです」
「アフターぐらい出させろ。男がすたる」
「でも……」
「ヒナ、ここは甘えておきなさい。こいつは金だけは持っているから」
「………はい。ありがとうございます」
「決まりだな」

店長の後押しもあり、僕は大人しく好意に甘えることにした。そんな僕を見ていたタツミさんは、いきなり僕の手をグイッと引いて、そのまま店を出て行ってしまう。

「ヒナ、また明日」

そんなタツミさんに驚いていたのは僕だけのようで、店長は仕方ないな、という風に優しく手を振ってくれていた。

僕は会釈だけで店長にあいさつすると、そのまま引きずられるようにしてタツミさんについていったのだった……。




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