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「悪かったな。家族のごたごたに巻き込んで」
「え……」
「分かってるんだ。兄貴が俺のためにしてくれてるのも。でも―――自分に嘘はつけなくてな」

そういいながら、シンジさんは水の滴る前髪をあげる。コンタクトを取ってしまっている視線は、やはりどこかユウイチさんに似ていた。

「この性癖は病気じゃない。苦しければ空気を吸って息をするように、自然に求めただけなんだ」
「はい……。そんなシンジさんだから、ユウイチさんも今悩んでいるんだと思います」
「兄貴だけじゃないさ。オヤジもおふくろも―――」
「いいご家族、ですよね」
「……あぁ」

僕がそう微笑みかければ、シンジさんは優しくほほ笑む。

僕の心配は杞憂だったようだ。

この兄弟なら、このご家族なら、きっといつか分かりあえる。僕が余計なことをする必要はない、と感じていると、バスルームの扉が開いた。

そこにいたのは当然ユウイチさんで、シンジさんはからかうように口を開く。

「裸の付き合いの邪魔すんなよ、兄貴」
「さっきまで散々やってたくせに。…ヒナ、つめて」
「あ、はい」

僕は言われるままに場所を譲ると、体育座りで大人しく待とうとした。

しかし、それを実行する前にユウイチさんの膝の上に乗せられる。

シートベルトのように後ろからユウイチさんの手が回され、僕は小さく苦笑した。寝ぼけているのか、すごく甘えたがりのようだ。

「……あー、こんなサイズの弟がほしかったな」
「悪かったなでかくて。しかも―――ゲイで」

僕の肩に顎をのせてそうつぶやいたユウイチさんに、シンジさんが少し固い声でそういった。

少しの緊張がシンジさんからうかがえて、僕も思わず身を固くする。後ろにいるユウイチさんをうかがえば、ユウイチさんは小さく苦笑した。

「後にも先にも、もう男とはセックスしないだろうな。でも―――お前のいうこと、少しはわかった気がするよ」

そう言って、ユウイチさんは僕の身体に回した腕に力を込める。

「絶対できないと思ってた。理解したくても身体はいうことは聞かないからな。でも―――思ってたよりずっと、それこそ息をするように簡単に思えた。自然に相手を求める、っていうこと、実感したよ」

お前の言う通りさ、と笑うユウイチさんに、シンジさんは少し泣きそうに顔をゆがめた。

泣くことはなかったけど、それでも視線を下にずらしてしまう。

「きっとこれからも理解が足りなくて、困らせると思う。でも―――俺はずっと、オマエの味方でいたい」

そう付け加えるように言えば、シンジさんは小さく呟く。

「…自分の言っていること、分かるよって認めてもらえるのがこんなに嬉しいと思わなかった」
「分かってしまったんだからしょうがないだろ」

そう言って、心底嬉しそうに笑う二人に、僕は心がほっこり温まるようだった……。





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