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そんな僕に、店長が声をかけてきたのは初出勤の日だった。

「ヒナ、ちょっと」
「はい」

僕は皿洗いの手を止めて、店長に向き直った。

店長はいかにも人のよさそうな壮年の人で、少し白髪のまじる髪の毛を撫でつけながら、申し訳なさそうに口を開いた。

「おまえの仕込みのことだけどな、今晩閉店後、残ってくれ」
「分かりました」

「今日はお前、愛想良く皿洗いしてればいいから。たまに声掛けられたら、俺を呼んで」
「ありがとうございます」

深々と頭を下げると、店長は何とも気味の悪そうな顔をした。

「…お前こんなところで働くっていうのに、全く動じないのな。もともとノンケだろ?」
「性行為自体経験がないので何とも言えません。ただ…少し落ち着かないのが本音です」
「ふーん」

そういう店長は、少し困ったように笑った。

この人は人が良すぎるのではないかと思う。

もともと、この店で働けるようになったのも店長の口聞きのおかげだし、働き手の誰もが彼を尊敬しているように見えた。

僕がじっと彼を見ていると、店長は僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でてどっかにいってしまったのだった。




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