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「確かに、タツミさんは僕と会うときはセーブしてくれてますね。車で会いにきてくださることも多いですし」
「会話が弾まないと楽しくならないからな。多分代行が面倒なのと、あの人なりの配慮だ」
「優しい人ですよね」
「心はせまいけどな。月末報告は1分の遅刻も待ってくれない」
「ふふ」
やはりちゃんとあって数日、お互いのことをあまり知らないので、共通の知人であるタツミさんの話になってしまう。
仕事場でのタツミさんの話を聞けて、僕はとても楽しかった。
しかし、その会話は予想外の展開で終わりを迎えてしまう。
「―――――そこまでだ」
僕たちの後ろから伸びて来た手が、僕たちをさえぎる。
あまり聞き慣れない声に振り返り、僕は目を丸くした。
「くっ」
くろきしさま、と言おうとして、慌てて止めた。
そこにいたのは依然ユウキさんと一緒にいた黒騎士のような人で、まるで威嚇するように僕たちを睨んでいる。
いや―――正しくはユウイチさんを。
「……おい、いい加減にしろ。余計な奴を巻き込むな」
そういったかと思うと、黒騎士様はユウイチさんの肩をグッと掴んだ。ユウイチさんの顔が苦痛に歪んだのを見て、僕はあわてて仲介に入る。
「お客さま!お客様同士のいさかいはご遠慮願います」
「ちっ、ユウイチ、店でろ」
「彼は僕とアフターの先約がありますので」
「あぁ?」
僕が食い下がりながらも仲介に入ろうとすると、標的は僕へ移動したようだ。
黒騎士様は僕を食い入るように見つめると、ユウイチさんに向かって馬鹿にしたように笑った。
「このそばかす抱こうってか。打算的なオマエらしいな。この体格なら掘られる心配は無いし、いざとなれば逃げ切れるもんな」
「それは違う!」
「どこが違うんだよ!そういう魂胆見え見えなんだよ!」
黒騎士様はそう怒鳴ると、さらに続ける。
「テメェには逆立ちしたってコイツを抱けねぇ。俺は理解されたいだとか思ってないし、理解できるようなものでもない。…そう簡単にどうこうできたら苦労しねえんだよ。俺を病気扱いするんじゃねえ」
あ、と僕は思った。
この人が―――ユウイチさんのいう弟さんなのだ。
そして、この人にも心の葛藤があったことがうかがえ、僕はユウイチさんをかばうように立つ。
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