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―――それから宣言通り、小宮さんは9時を少し過ぎたあたりでバーにやってきた。

「いらっしゃいませ。お待ちしていましたよ」
「ヒナ、お邪魔します」

どこか緊張している様子の小宮さんを入り口まで迎えに行き、人気の少ないカウンター席に案内した。

「お好きなお酒を注文してください。バーにしては結構良心的な値段ですから」

メニューを渡しながら言うと、小宮さんは『モスコミュールで』とオーダーをしてくれた。

僕はできるだけ小宮さんから目を離さないようにして裏に引っ込み、速攻でお酒を造って席に戻る。

所在なさげにしていた小宮さんが、僕を見かけると少しホッとしたように笑う。僕は隣のスツールに腰掛けてお酒を置いた。

「お待たせいたしました。…今日は雰囲気だけ、という感じですので、僕から離れないでくださいね。小宮さんは綺麗ですのでモテそうですが、もしお客様にアフターのお誘いをかけられても『先約がある』と言ってください。大抵のお客様は身を引いてくださいます」
「分かった。…ヒナ、どうも職場にいるような気分になるから、名字で呼ぶのはやめてくれ」

用意したお酒をあおりながらそう言われ、僕は目を丸くする。

どこか不機嫌そうなその格好がおかしくて、僕は笑いながら頷いた。

「はい。……では、ユウイチさん、と呼ばせていただきます」
「あぁ」

やっと眉間のしわが消え、どこか普段の調子に戻ってきたユウイチさんに、僕は少し安心しながら自分の飲みものに口をつけた。

「普段から、バーには来られるんですか?」
「そうだな、あまり騒ぐのが嫌いで居酒屋の飲み会が苦手だったからね。静かに飲める場所が好きなんだ」
「ふふ、どこかそんな気がしてました」
「タツミさんの方が酷い。無言で飲んでるくせに、アルコールの強いのをガバガバ開ける。ホテルのバーだって、あの人の趣味が半分だ」

オフのスイッチが入ったユウイチさんは敬語が抜けていて、それでも口が悪いわけではない。

あまりに心地よい声の響きに、僕は会話に没頭した。





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