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「……確かに、僕は誰とも恋愛をしたことがありませんでしたから、同性と身体を重ねることに抵抗はありました。でも、悪いことだけでもなかった、それだけの話です」

あの扉をくぐらなければ、タツミさんに出会うこともなかった。

店長があんなに優しいことも知らなかった。

ユウキさんが、僕をかまいながらも僕を見守ってくれている素敵な人だなんて知らないままだった。


そして―――愛を知らないままだった。


「小宮さんには理解しがたいかもしれませんが…それが真実なんです」

生意気を言ってしまいすいません、と頭を下げると、冷静さを取り戻した小宮さんが一つ息を吐いた。

その呼吸に諦めと納得の色が見え、僕はおそるおそる彼の言葉を待った。

すると、小宮さんは苦笑して口を開く。

「……君は鋭いですね。辰巳さんが気にしている理由がわかります」
「そんな……」
「結局、俺はいつだってずるくて、中途半端なだけなんだ。あの日、バーの中に入れなかった臆病さがいい例だ」
「でも、理解してくれようとしてくれているんですよね?」
「………そうだよ」

小宮さんはどこか悲しそうに笑うと、僕に向かって口を開いた。

「俺には君と同い年の弟がいてね。―――この前、自分はゲイだと家族にカミングアウトしてきたんだ。それからもう、家の中はめちゃくちゃでね、でも弟は折れなくて…。俺は、家族がバラバラになるのが嫌で、弟に理解を示そうと思ったんだ」

いろんな葛藤があった、と彼は苦笑した。

しかしそれ以上に、家族への想いが勝った。

それでも―――あと一歩が踏み出せない。

自分の気持ちを吐露してくれる小宮さんに、僕は胸が痛くなる。

自分の家族について、こんなに心の底から悩める小宮さんに、尊敬の念すら抱いた。

それくらい大事に思える家族がいて、同じだけ大事に思われているから、これだけ強い絆で結ばれているのだろう。

借金の紙きれ一枚でつながる僕と父親とは違う、僕のあこがれた家族がそこにはあって、僕は心の底から協力しよう、と胸に誓った。

壊れてほしくない、ずっと、そのままの幸せな家族でいてほしいから。

「…小宮さん、僕もできることなら何でも協力します。僕、バーではヒナって名乗っているので、良かったらそう呼んでください」
「ヒナ……?」
「はい。―――もし、ご家族の事で煮詰まってしまっているのなら、僕のお店に来てください。二人で、真実を探しましょう」

小宮さんの手を取りながらそういえば、小宮さんは申し訳なさそうに笑った。それでも腕を振り払われる事はなく、僕はそのまま微笑む。

「……ヒナ。今晩9時に伺います。お相手お願いしますね」
「はい」

僕の手を握り返してそう言ってくれた小宮さんに、僕は大きく頷いたのだった……。





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