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小宮さんの誘いが嬉しくて、僕は大きく頷く。

案内されたのはフロントの奥にある休憩室で、僕は普段のユウキさんとの習慣でコーヒーを用意する。

ユウキさんは気分でミルクと砂糖の量を変えるので、僕は小宮さんに思わず訪ねていた。

「ミルクと砂糖はどうなさいますか?」
「恐縮ですね。……ブラックで大丈夫です」
「了解です」

僕は自分のカップに砂糖とミルクをたっぷり入れると、何も入っていない方を小宮さんに渡した。

「インスタントなのにおいしいですね。俺よりずっと上手だ」
「バーの先輩がコーヒーにはうるさい方で。おいしい入れ方を伝授させられました」

僕が何気なくそういうと、小宮さんの顔が曇る。

何か粗相をしたのかと内心焦っていると、小宮さんはぼんやりと口を開いた。

「朝比奈は…なんであの店に?」

そう言われて、僕は言葉に詰まった。

しかし、どこか思いつめている様子の小宮さんに嘘をつくこともはばかられ、僕は素直に自分の身の上を話した。

「…僕には、親の作った借金があります。貧相で力のない僕がお金を返すためには、あのお店しかなかったんです」
「それでは……本当は嫌なんでしょう?」

小宮さんに言われ、僕は違和感を感じた。

小宮さんの言葉は、一見僕をいたわってくれているようにも聞こえる。しかし、表情やしぐさ、語り方はもっと別の事をはらんでいた。

「…失礼ですが、小宮さんは僕がイヤイヤ働いている方がいいんですか?」
「!」

そう、彼の語り方には、どこか自分の意見が正しくあってほしい、という期待が込められていた。

―――彼はもしかしたら、ゲイという性癖を受け入れられない性質なのかもしれない。

そう考えたら、今までのことに納得がいく。

どんなに濡れてもお店の中に入ってこなかった彼。理解を示そうとしているにもかかわらず、まだ本能的な部分でためらいがあるのだ。

確かに、あのバーはノンケには敬遠されがちな場所である。ハッテンの斡旋なんて、普通じゃ考えられないのかもしれない。

そこにいる僕を通して、何かを見ようとしているのだろうか。

あの扉の奥の、真実を。





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