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生理的に溢れていた涙が、さらに頬を伝った。
ヤナギさんはそんな僕を観察しながら、おかしそうに笑った。
「悔しいか?嫌いな奴にケツ掘られて感じるなんてな。分かるか?オマエこのしこり突いたらケツ締めるんだぜ?」
「う…あぁ、あーっ!!」
もう僕の口から意味のある言葉は出てこず、軽くパニックに陥っているといっても過言ではない。
嫌だ嫌だ嫌だ――――
そればかりが頭の中で交錯して、僕はひたすらにイヤイヤと首を振る。
嫌だ、苦しい。助けてほしい。
誰か、誰か――――
「―――『セツ』」
……一瞬、何が起きたのか分からなかった。
すごく優しい声で、名前を呼ばれる。『ヒナ』ではない、僕の本名。
―――タツミさんなわけ、ないのに…
そんな風に甘く呼んでくれるのはタツミさんだけで、タツミさんではないと分かっていても、僕は振り返ってしまった。
そこにいるのはやはりヤナギさんで、僕は信じられない面持ちで彼を見上げる。
ヤナギさんは僕と目が合うと、小さく笑った。
「―――オマエ、馬鹿だよな」
「っ!!んぁっ!」
ヤナギさんはそんな僕にそう吐き捨てると、再び腰を動かし始める。
僕の片足を抱えあげると、そのまま容赦なく腰を進めてきて、バックの時とは刺激する位置が変わり、僕は再びシーツに顔をうずめた。
「ちょっと甘い顔を見せれば騙されやがって。いい加減―――目を覚ませ」
「んっ、んーっ!!」
「親もいない、借金まみれ。貧相、地味、貧乏――そんなオマエに、誰が優しくする?何も裏がないと、なぜ言い切れる?」
僕は犯されながら刷り込まれていく言葉に、胸が痛くなった。痛んだ胸の分だけ、涙が溢れてくる。
それは、そのままタツミさんの事を言っているのだと分かってしまったから。
ヤナギさんの情報網で、タツミさんの事はすでに知られているのかもしれない。そして、僕が心惹かれているのを見て、僕に心底呆れているのだ。
そうだとしたら、バーでの急な態度の変化も納得がいく。
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