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「おう、遅かったな」
「飲みすぎだと店長に心配されました」
「まぁ、なんだかんだで二時間近く飲んでるもんな」
「本当に、なんで潰れないのか不思議です。いい加減肝臓を悪くしますよ」
「オマエは親か」
ヤナギさんは不機嫌そうに鼻を鳴らし、梅酒を一気にあおる。
僕は見ているだけで酔ってしまいそうだったが、ヤナギさんは顔色一つ変えずお酒を飲み続けた。
かと思えば、僕の顎をいきなり掴んで至近距離で僕を睨みつける。
「な……」
「―――気が変わった。アフターに切り替えだ。店長に言って会計して来い」
僕が絶句していると、ヤナギさんは僕をじっと観察してからそういった。僕が意味をのみ込めていない間に、財布から諭吉を取り出し、僕に押しつける。
「僕はまだ勤務じか―――あっ」
「うるせーさっさと行け」
かなり強い力で押しつけられ、僕は口答えする間もなく突き飛ばされてしまう。
急に不機嫌になったヤナギさんに首をかしげながらも、床に散らばってしまったお金を拾い、カウンターに向かう。
「店長、会計と……アフターのお誘いです」
「あぁ……ヒナ、オマエまだ勤務時間じゃ」
「じゃあ、コイツのこれからの給料分払っといてやるよ」
僕が店長と話していると、後ろから煙草をくわえたヤナギさんが出てきて、店長の前にお金を置く。明らかに支払い過多なそれに、店長は言葉を失くしていた。
僕も、あの一件から煙草の火が少し苦手で無意識に強張ってしまい、必然的に後ろにいるヤナギさんに抱えられる形になってしまう。
「じゃ、義理は果たした」
「ちょ……ヤナギさんっ!」
ヤナギさんはそういうと、僕の手を引いて店を出ていく。
扉が閉まる一瞬だけ、僕が店の中を振り返れば、驚いている店長と、カウンターの奥に座るタツミさんが見えた。
カウンターにいたということは、一部始終を見ていたということだ。
最後に見たタツミさんに胸がいっぱいになってしまいそうになりながら、僕は口だけで『大丈夫です』と告げた。
僕は心配させないように二人に笑いかけて、そのままヤナギさんに引きずられていったのだった……。
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