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「―――しっかし、お前も残念だよな。ようやく借金が6ケタに戻ろうか、というところでさらに借金だもんな」
「ほっといてください」
「ほっとけるかよ。テメーの組の金が動いてるんだ。徹底的にいびらせてもらうぜ」
「生憎と、ヤナギさんが期待されるようなリアクションはできませんので」
「あっそ。―――ま、都合良く動くオマエなんて気持ち悪すぎて撃ち殺しそうだけどな。…次、ちょっと飽きて来たから梅酒ロック」
「少々お待ちくださいませ」

まともな接客をする気になれず、僕は棒読みでそう答えるとカウンターに向かう。

基本的に土曜日は客入りが多い日だが、カウンターには店長が残ってくれていて、僕は店長に梅酒をお願いした。

「…ヒナ、ほら、ちょっとつまんでいけ。顔色が最悪だ」
「―――ありがとうございます」
「あの人かなり飲むからな。弱い酒ばっかりだが、普段のお前にはあり得ないペースで飲んでるぞ」

店長は僕の前に野菜の切りくずなどで作った賄いのパスタサラダを出してくれて、正直アルコールの飲みすぎで胸やけがしていた僕はありがたくそれをいただくことにした。

確かに、僕の今のペースは危ない。このままでは閉店までに潰れてしまうかもしれない。

そんなことを危惧していると、店長が梅酒を作って差し出してきた。

店長の優しさにこれ以上甘えないためにも、僕は一つお礼を言ってヤナギさんの席へ戻ろうとする。

その時―――

カランカラン、と入り口のベルが鳴った。見ればそこには仕事帰りのタツミさんの姿があって、僕はいっそう胸が苦しくなる。

―――先週は、嬉しくて真っ先に抱きついてしまったんだった…。

カウンターから入り口までのたった数メートルが、かなり遠く感じる。

タツミさんも僕に気づいてくれたのだが、僕が近寄らないことに不思議に思ったのだろう。

僕に向かって少しだけ困ったように微笑んだ。

「……いらっしゃいませっ」

僕はそう言ってタツミさんに頭を下げると、一目散にヤナギさんの席に戻った。

ちゃんと笑えていただろうか、僕の精一杯の強がりの証。

はしたなくねだる様な顔をしていたらどうしよう、タツミさんが変に思わないような接客を、僕はきちんとできていただろうか。

あれ以上タツミさんを見ていたら、いつものように抱きつきに行ってしまいそうだった。

タツミさんの困ったような微笑みが、頭から離れない。

タツミさん、タツミさん―――

「―――お待たせいたしました、梅酒のロックです」

心の中でタツミさんを呼びながら、しかしヤナギさんの前では心を閉ざし、できる限り平静を装って接客する。





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