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「……悔しかったら死ぬほど働けよ。ここの給料はすべて俺の口座に振り込ませることにした。ダブルワークしないと飢え死ぬぜ」

ただでさえ店長に部屋までかりてるのにな、と意地悪く笑うヤナギさんの手から煙草を奪い取ると、灰皿に押しつけてもみ消す。

そうして怒りのままに、僕は口を開いた。

「心配は無用です。すぐに仕事を探して億万長者になってやります」
「そんなに器用だったらオマエは今こうしてはいずりまわってねぇよ。―――ま、援助交際の真似事でもして、股開いて金もらいな」

ちなみにこの辺の店には雇わせないよう根回しもしてる、と言われ、どこまでも僕をいたぶろうとするヤナギさんに腹が立った。

こんな人に、絶対負けたくない――――

「心配は無用だと言ったはずです。あなたの思い通りにはなりませんから」
「おいおい、俺も客だということを忘れんなよ?そこらへんのヤツよりは金遣いも腰づかいもウワテだと思うぜ」
「……本当に最低ですね、下品極まりないです」
「世の中下品にできてるんだよ。所詮金だ。お高くとまっている方が損だと気付かないオマエは本当に救いようがないよな」
「お金がすべてだと思っているあなたも、僕から見たら相当ですよ。お金は必要でも、お金がすべてではない」
「じゃあ―――オマエが証明しろよ」

ヤナギさんはそう言いながら意地悪く笑ったかと思うと、僕の顎を強く掴む。抵抗する間もなく、ヤナギさんの唇と僕のそれが重なった。

イヤイヤとヤナギさんの顔から逃げるように顔を振ろうとするが、後頭部をがっちりホールドされて動けない。腰にまわした手は、僕と同じ男のものであるはずなのに、僕とは比べられないほど力強かった。

口唇を割るように舌が入ってきて、不快感に顔をしかめたが、舌はそれ以上入ってこず、口唇を一舐めして出て行った。

「んっ、―――んぁ、」
「…舌を噛まれたらたまらないからな。今日はこの辺にしてやる」

ヤナギさんはそういうと、僕の唇をぬぐって席に置いてあったナフキンで手を綺麗にした。

「土曜日にまた来る。―――新しい仕事はしっかり探しておけよ」

ヤナギさんはそういうと、会計のつもりなのだろう、諭吉を一枚取り出して僕に向かって放った。ひらひらと舞うそれに茫然として、僕は大事な言葉を忘れていた。


―――土曜日は、タツミさんが来る日なのに…

それを思うと、涙が溢れて来た。気持ちは押し隠すつもりでも、涙腺が緩くなるのは我慢できない。

「タツミさん…タツミさん……っ」

会いに来てくれるのに、会えない。会いたいのに、会えない。その事実に、胸が押しつぶされるようだった。

きっと僕の借金のこともばれてしまう。小さなプライドだけど、あの人の前では対等でいたかった。


僕はそのまま、心配した店長が様子を見に来るまで静かに泣き続けたのだった……。





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