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「……今日からここで働くことになったから。ヒナ君ね」
「はじめまして、よろしくお願いします…」
僕は新しく働くことになったお店で、深々と頭を下げた。そんな僕を見る目がどんなに冷たくても、僕のすることは変わらない。
「店長。こんなの使えるの?」
「見るからにひょろそうなんだけど」
「しかも…そっちの経験ないらしいじゃん」
先輩達からの非難は予測済みだったのだろう、店長は僕にもしていたような、いわばテンプレの説明を始めた。
「ヒナは確かに頼りなさげだが、そちらの仕込みさえすれば十分使えると思うよ。何せ、お客様は様々なニーズを持っているからね」
そう言われて、先輩たちは口ごもった。何か言いたいことがあるのだろう。品定めをするように僕を上から下まで眺めている。
貧相な体、黒髪に縁取られた頼りなさげな普通の顔。
よく見ればぽつぽつと浮かぶそばかすに、先輩たちは露骨に嫌な顔をする。
「確かにこんなゲテモノ、うちにはいないけどさ。こんな顔じゃ仕込んでやる気にもならないよ」
「ゲテモノ食いの客なんてこっちから願い下げだけどね」
心底馬鹿にしたような笑いに、僕は返すこともなくうつむくことしかできなかった。
そんな僕に代わって、店長は先輩たちを必死になだめすかしてくれて、なんとか僕はここで働くことができるようになったのだった。
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