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―――土曜日の仕込みの時に、最近よく笑っている、と店長に言われたことを覚えている。

僕は意味がわからなくて自分の頬をつねってみたりしたけど、ユウキさんに倍以上の強さで引っ張られて終わった。

でも、僕は幸せを知ってしまった。

今なら店長の言っている意味がわかる。

そうして、失いたくないと、非力ながらに願ってしまうのだ―――



―――その日、僕は裏方の仕事に徹していた。

お客様の入りが激しく、休みの先輩もヘルプに駆り出されたりしていたので、ある種異様な忙しさだったように思う。

カラカラとグラスの氷をかき混ぜながら次のお酒を用意して、サイドメニューを火にかける。

そんな単調作業も山のように次から次へと来られてはたまったものではなく、僕は粗相をしないように一人黙々と調理していたのだ。

入店してからしばらくたっているから、すべてのメニューのレシピも網羅してしまった。

ユウキさんでも知らないような裏メニューも作れるようになって誇らしく思っているのは秘密である(ユウキさんに殴られるから)。

「―――ヒナ、ボックス指名だ」

そんなとき、店長にそう言われて、僕は何かの間違いじゃないかと思った。

僕は相変わらず日常会話以上のコミュニケーションをお客様ととったことが無く、お客様に顔を覚えてもらえていればいい方である。

ユウキさん以外の先輩が自分のお客様を僕に紹介するわけないので、はっきり言って指名らしい指名は今回が初めてだ。

「そして―――申し訳ないが『1番』席だ」
「っ、」

僕はそれを聞いてビクリと身体を震わせた。

『1番』とは、ボックス席の中で完全防音とロックを兼ね備えている席で、通称『ヤリ部屋』と呼ばれている。

ついている扉を閉めれば外と綺麗にシャットアウトされるため、犯罪を防ぐためにもお客様のみでは絶対に使用不可である。

そして店長の許可がいるのだが、店長の顔色があまり優れないことを気にして、僕はあえて何も聞かないことにした。





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